バンビのあくび

適度にテキトーに生きたいと思っている平民のブログです。

ボールで弧を描く

f:id:bambi_eco1020:20140911164527j:plain
 

小学生の時、クラスでラケットベースをやったことがある。

野球みたいなルールで、打つ時にバットではなくラケットを使うので、初心者や女の子でもボールが当たりやすいスポーツだ。私は、運動が得意だったので、打つのも走るのも問題なかったけれど、1つだけとても苦手としていることがあった。
 
それは高く上がったボール、「フライ」を取ることだった。
 
ゆるい球なのに…と思われるかも知れないが、空高く上がったボールの真下に行くと顔面にボールが落ちるのではないかととてもこわかったのだ。「顔に当たったら怖い!」と思うあまり、手だけを前に突き出して取ろうとするものだから、ボールの重さも感じるし、取れないことも多かった。
 
負けず嫌いの私は、それが悔しくて同じクラスのマッキーと言うあだ名の男の子に「フライの取り方を教えて!」と頼んだ。マッキーは平然とした表情で「いいよー」と言ってくれた。
帰宅後、ランドセルを放り投げて、すぐに自転車で出かけた。
学校の校庭でマッキーと待ち合わせをしたのだ。
私が着いた5分後ぐらいにマッキーがやってきた。柔らかいピンク色のゴムボールを持って。
 
「これ、当たっても痛くないボールだからこれで練習しようよ」
 
マッキーはそう言うと、ボールをぽーんと頭上高く放り投げて、自分でキャッチして見せてくれた。
その動きがあまりにも軽やかであったため、私にもすぐに出来るのではないかと思った。
けれど、恐怖心を拭い去るのは難しく、なかなかイメージしたような動きが出来ない。
何度かやってみたが、どうしても腰が引けてしまう。
 
そんな時、マッキーが「だからぁ、当たっても痛くないんだって!ほら!」と、高く放り投げたボールを今度はキャッチせずにおでこにコツンと当てた。サッカーのヘディングみたいだった。ピンクのゴムボールはマッキーのおでこに当たった後、ポーン、ポン、ポン…と地面に跳ねて転がっていった。
 
転がっていくボールを眺めながら「ああ、そうだ。当たっても痛くないんだった。次はボールの下にちゃんと入って取ってやろう!」と心に誓った。
 
マッキーが再度、空に向かってボールをポーンと放り投げる。
私はボールの落下地点に入り、空に向かって両手をあげた。そのボールを落とさぬように。
そしておでこの上の方で、しっかりとピンクのボールをキャッチしたのだ。
 
「できるじゃん!」
「うん。できた!!やった!」
 
その会話をした後は、何度やっても成功した。
恐怖心さえなければこんなにもボールをキャッチ出来るのか!と思うくらい手の中にスッポリとピンクのボールがおさまっていたのだ。
 
 
***
 
元々、ボールをキャッチする時は直球の方が怖くなかった。
相手が投げたボールは間違いなく私に向かって飛んできてそれをキャッチすれば良いのだから。
だが、直球は時々、私に痛みを与えた。真っ直ぐすぎるそのボールは何度も受けるとヒリヒリと痛かった。
 
逆にフライのようなボールは落下地点がわからないとしっかりとキャッチすることが出来ない。
だが、ふわっと軽いそのボールは受け取めても痛みを感じることはなかった。
 
***
 
同じく小学生の時に学校対抗でのポートボール大会があった。
ポートボールはバスケットボールと同じようなルールのスポーツで、リングの代わりに台の上に立ったゴールマンがボールをキャッチするスポーツである。
ゴールマンの前にはガードマンが立っており、この人をかわして台の上にボールを投げなければいけないのだ。
ゴールマンになる人は運動があまり得意ではない子になる場合が多い。
台の上から動かずボールをキャッチすれば良いからだ。だけれども、誰よりもプレッシャーのかかるポジションだと思う。
 
学校対抗のため、皆いつもよりやる気でピリピリしていた。
私はチームのキャプテンだったのだが、マークが3人ついていて、気持ちに余裕がなかった。
それでもなんとかドリブル突破して、ゴールマンであるひなちゃんにボールを投げる。
私が投げたボールはガードマンを避けたが、ひなちゃんはキャッチすることが出来ず、ボールはそのまま落ちて無得点となった。
皆の落胆はボールを取り損ねたひなちゃんへ向けられる。ひなちゃんは申し訳なさそうな顔をしていた。
だが、ボールを投げた私だけはいつもより強いボールを投げてしまった事を知っていた。あのボールではひなちゃんは取れないと投げた時にわかったのである。
勢い良くドリブルをしても最後、ゴールマンであるひなちゃんへ投げる時はその勢いを抑えてふんわりと投げなければいけなかった。
 
「フライ」のようなボールで尚且つ、落下地点がひなちゃんになるように投げなければいけなかったのだ。
ひなちゃんがボールをキャッチ出来なかった事で、私はピンクのボールを思い出したのだった。
 
そこからは緩急つけた動きを頭に置き、ひなちゃんが痛みを感じないボールを投げようと思った。
手の痛み。心の痛み。どちらも痛んで欲しくない。
もちろん、ひなちゃんがボールを取れれば私達の得点になる。
 
皆で頑張ったのだが、結局、その試合は負けてしまった。
悔しかったけれど、試合後、ひなちゃんが「えこちゃんのボールが1番取りやすかった!」と言ってくれた。
その場面だけは鮮明に記憶している。
 
***
 
スパッ!とした直球を受け止めたい時。
ふわりと弧を描いたボールを受け止めて欲しい時。
 
日常の中で色々思うことはあるけれど、色んな伝え方、伝わり方があると言うことだけはいつも覚えておこうと思う。
  

 

 

きりのなかのサーカス

きりのなかのサーカス