バンビのあくび

適度にテキトーに生きたいと思っている平民のブログです。

まだたれにも言わない

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小学3年生の時、国語の授業で「詩を読もう」と言う単元があった。

そこに書かれていた「詩」は2つあって、1つは「夕日が背中を押してくる」でもう1つは「ひばりのす」という詩であった。
 
「夕日が背中を押してくる」は阪田寛夫さんの詩で、合唱曲にもなっており、テンポも良く、ユニークで、さらに「夕日」は身近なものだったので、みんなが楽しそうに読んでいた記憶がある。
 
「ひばりのす」は木下夕爾さんの詩で、ひばりのすを見つけた喜びと高揚感が伝わる素晴らしい作品だと思う。
 
ひばりのす
みつけた
まだたれも知らない
 
あそこだ
水車小屋のわき
しんりょうしょの赤い屋根のみえる
あの麦畑だ
 
小さいたまごが
五つならんでる
まだたれにも言わない
 
この詩は「誰」を「たれ」と書いているのだが、この表現にハマってしまう子が何人かいて、真面目に読んでいるのにどこからかクスクスと笑い声が聞こえてくることが多く、それが私はイヤだった。
 
 
この2つの詩を一通り読んだ後、先生が「どちらの詩が好きですか?」と言う質問をした。圧倒的に「夕日が背中を押してくる」の方が人気があった。
私も「夕日が〜」は好きだけど「ひばりのす」のワクワクする雰囲気がとても気に入ったので迷わず「ひばりのす」に手を挙げた。
 
それを確認した後、先生は「実はお昼の校内放送で、もうすぐウチのクラスの番がくるから、代表者にこの詩を朗読してもらおうと思っているの」と言ったのだ。
 
当時、私は音読が大好きで、授業で挙手はしないくせに、音読だけはハッキリと皆の前で読み上げることが出来た。そんな流れもあり、なんだかわからぬ間に私は校内放送で「ひばりのす」を朗読することになったのである。
 
たかだか校内放送とは言え、全校児童の耳に自分の声が届くのだと思うと、不安しかなく、家でずっとこの詩を読み続けていた。
どこを強く読んだらワクワク感が伝わるだろうか?
短い文の中で強弱をどう出そうかと考えていた時に、最後の文である「まだたれにも言わない」をどう読むかが一番難しいと感じた。
 
当日。
「夕日が背中を押してくる」を読んだミナちゃんはとても上手だった。
私は気持ちが焦っていたけれど、「出来るだけゆっくり読むんだ」と自分に言い聞かせ、「ひばりのす」を読み始めた。
「この詩は「たれ」と書いていてもおかしくないよ?自分が第一発見者のワクワク感があるでしょ?」
そんな思いを短い詩の朗読で表現したかった。
読むのが難しいと思った最後の一文を私は力を抜いて囁くように読んだのだった。
 
教室へ戻った後、先生が「上手に読めてたわよ」と言って下さった。
お世辞だろうけれど、私は自分で考えたように読むことが出来たのでそれだけで嬉しかった。
クラスの皆は給食に夢中で対して聞いていなかったかも知れないけれど、それでもなんだか知らない達成感があったのだった。
 
***
 
「ひばりのす」はそこから触れることなく、私の中ではしまいこまれた記憶であった。
だが、そこから10年以上経て、ある本を読んでいる時に「ひばりのす」が出てきてグワっと記憶が蘇ったのである。
 
その本がこちら。 

 

リセット (新潮文庫)

リセット (新潮文庫)

 

「スキップ」「ターン」「リセット」とある3部作の中で、私が一番好きなのは「スキップ」だけれども、「リセット」は「ひばりのす」が出てきた時点でやられてしまった。だって私にとっては思い出の「ひばりのす」なのだから。

 
そこからまた「ひばりのす」は私の中で忘れかけた存在だったのだけれど、またまたある本を読んでいる時に「ひばりのす」に出会ってしまったのだ。
 
それがこちら。  

 

本屋さんのアンソロジー (光文社文庫)

本屋さんのアンソロジー (光文社文庫)

 

 この本は「本屋さん」をモチーフにした10の短編が10人の作家によって書かれているのだが、その中の門井慶喜さんが書かれた「夫のお弁当箱に石をつめた奥さんの話」に「ひばりのす」が出てくるのである。

それも少しユニークな引用だったので「うわっ!ひばりのす!」と思わず声が出てしまった。ここで出会うかー、そうかー、という気持ちでいっぱいだった。

(この本、どなたの話もサラッと読めて面白いです!)

 

***

そんな風に「ひばりのす」は度々、その存在を私にアピールしてくる。

その都度、私は「ひばりのす」を読み返し、どんな読み方をしたら良いかな?と考えることを楽しんでいる。

このペースで行くと10年後ぐらいにまたどこかの本で出会うような気がするなぁ。

その時を楽しみにしながら、また私はゆっくりペースで色んな本を読んで行こうと思っている。

(たぶん、その時は忘れているんだろうけど!!)