バンビのあくび

適度にテキトーに生きたいと思っている平民のブログです。

かえりみち

仕事を終え、会社を出た。

空を見上げるとやや赤みがかった夕焼け空で、そこにあった雲は左から右に流れるように動いていた。今日は台風が過ぎ去った後で高い高い空はまだ風がごぅごぅ吹いているのであろう。大きなイモムシのような形をした雲も流れるように動いて行った。
私は車に乗り込み、運転席に腰掛けるとメガネケースからメガネ取り出した。しばらく前に買ったメガネもだいぶ私の顔に馴染んだと感じている。手早くシートベルトをしめ、エンジンをかけた。
駐車場から道路にゆっくり出ると、いつもと同じ道を同じように進んで行く。
しばらく車を走らせ、赤い光の見えた1つ目の信号で車を停止した。横断歩道を青い作業着を着て少しくたびれた顔の男性がせかせかと渡って行った。
左手にあったコンビニの前で女の子が2人、それぞれの自転車に跨って楽しそうに話をしていた。その手には中華まんがキュッと握られていた。「ああ、中華まんの美味しい時期が来たんだ」と思った。
その後、少しだけ渋滞にはまった。
車がノロノロと動くので、対向車が目に入ってくる。助手席でスースーと寝ていた男の子がとても気持ちが良さそうだった。
赤みが一段暗くなった空の下で、自動車販売店の蛍光灯が眩しく光りを放っていた。車もだんだんヘッドライトがつけられていく。ヘッドライトの光の方がこの空色に馴染んでいるように見えた。
右手に見えた草はらで猫じゃらしが風に吹かれて揺れていた。
ここに猫がいたら飛びつくのかしら?そんなことを思い、遠目に眺めた。
白いヘルメットをかぶり、ジャージを身に付けた中学生の女の子が一生懸命自転車を漕いでいた。早朝、暴風警報が出ていたため、小学校は休校となったが、中学校は午後から授業だったもんね、お疲れ様と心の中で話しかけた。
左の肩にバッグを引っ掛けて、右手でスマホをいじりながら歩いている男性は下を向いたままだった。
おそらく彼に景色は見えていない。
 
見慣れた交差点を過ぎ、見慣れた駐車場に車を止め、エンジンを切った。
ここで塾を終える息子をしばらく待つ。
バッグに入れてあった本を取り出し、膝の上に置く。パラパラとしおりの挟んでいるページを探した。
何気なく、フロントガラス越しに空を見上げると、イモムシのような雲が真っ黒な色をしてそこにいた。暗くなり始めた空の色よりももっと深い黒。何かが起こりそうでこわい色だなと思った。
手に持った本に視線を落とす。私はあっという間に本の世界へ入りこんだ。2、3回ウトウトと頭が揺れた。自分でわかるくらいに。ハッとして外を見ると黒い雲は夜の闇に飲み込まれ、すでに同化していた。
左の方からパタパタとした足音が聞こえ、息子が車に乗り込んで来た。
 
エンジンをかけ、車を走らせる。
真っ暗な田んぼだらけの道を走っている時、夜空に月が浮かんでいるのが見えた。月はサクマ式ドロップスの楕円形のような形をしていた。サクマ式ドロップスといえば、レモン味が好きだったのに、間違えてハッカを口にし、んべぇ…と思ったことが何度もあったなと思い出し、フフッと笑った。
 
家に着くまでの、いつもと同じ道のりのいつもと変わらぬ日常。
 
けれど、全く同じと言うことはない風景をいつもどこかで楽しんでいる自分がいる。
 
 
***
 
これを書いている「今」
 
静けさの中で聞こえるのは風の音と虫の声、それから毛布に包まれイモムシのようになった娘の寝息だけだ。
 
 
夜の帳も下りたので、みなさん、ゆっくりおやすみなさい。
今日もおつかれさまでした。 

 

 

おやすみなさいフランシス (世界傑作絵本シリーズ―アメリカの絵本)

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