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バンビのあくび

適度にテキトーに生きたいと思っている平民のブログです。

星の砂

つくりばなし

秋と冬の境目はなんだか色んなことがありますね。

師走も近づき、気持ちも少し慌ただしくなっているように感じますが、それを静めるために今回も「のべらっくす」に参加させて頂きました。

静めるつもりがどっぷりハマりまして、書き始めた文章を1つ全部削除しましたよ。

あはは。

何をやってるんでしょ?

でも楽しかったですよ☆

 

***

『星の砂』

 

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 ミチルはヨウコちゃんからお土産をもらった。

ヨウコちゃんは沖縄へ行っていたらしく「ミチルちゃんにはこれをあげるね」と渡されたお土産は、小さな小瓶に入った砂だった。砂といっても「星の砂」と言うらしい。よく見ると、確かに星のような形をした砂がぎっしりと詰まっていた。ミチルは星の砂を「不思議で可愛いものだな」と思った。なんでこんな形をしているのかという疑問よりもその形の美しさに心をぎゅっと掴まれた。そしてミチルは「星の砂の国」を想像して楽しんだ。きっと、建物は星の砂でびっちりと固められていて夜はピカッと光り輝き、七色の天の川みたいな川が中央で静かにせせらいでいるのだと。

だから「星の砂は有孔虫という生物の殻なのよ」とお母さんに教えてもらった時は心底がっかりした。「太陽の砂もあってね、それも有孔虫の殻なのよ」なんてお母さんは言ったけれど、あまりにも夢がなくてつまらないと思った。
 
けれど星の砂が綺麗な星型をしていることに変わりはなかった。
ミチルは気分が沈んだ時に、机の引出しの奥に閉まった小瓶を取りだした。小瓶を親指と人差し指でつまみ目線の高さまで持ちあげ、斜めに静かに傾ける。ミチルはさらさらと動く星の砂をただひたすら眺めた。
さらさら。さらさら。
貝殻を耳元に寄せた時のような波の音がゆったりと聞こえてくる気がした。
さらさら。さらさら。
嫌なことも何もかも忘れてこのままずっとこうしていたいと思った。
 
ある日。
ミチルが眠ろうとベッドに横になり目を閉じると、机の方からカサカサというかすかな音が聞こえた。なんだろう?とミチルは思ったものの虫だったら怖いなと思い、目をギュッと瞑って聞こえてないふりをした。
カサカサ。カサカサ。
「ちょっと~、ここは海ではないのかな?」カサカサと言う音に紛れて何やら声が聞こえてきた。「暗くて良くわからないけれど潮の香りはしませんね」小さな声だけれど今度ははっきりとそう聞こえた。ミチルはスタンドライトのスイッチを入れ、恐る恐るベッドから降りるとゆっくりと机に近づいて行った。
「カモメの声も聞こえないのう」また声が聞こえた。ミチルはちょっぴり怖かったけれど、その声が昨年亡くなったおじいちゃんの声に似ていたので机の引き出しに手をかけ、すすっと静かに引っ張った。
「お、お、おっと!」
引出しの中で何かが声を発しながら、コロンと転がった。ミチルは目を見張った。声の主、それは小瓶を背中に背負ったヤドカリだったのである。
「ちょっと、びっくりするではないか!」
ヤドカリはお腹を上にし、足をバタバタさせながら怒り口調でそう言った。
「あ、ごめんなさい。すみません」
ミチルは驚きながらもさかさまになったヤドカリを持ち上げると、机の上にちょこんと置いた。
「おぬしは誰だ?ここはどこなんだ?潮の香りも波の音もカモメの声も聞こえんのだが」
「私はミチルです。ここは私の部屋だから海なんてないの。海はもっとずっと遠くの方です」
それを聞いたヤドカリはふぅっとため息を吐くと「どうやらわしはだいぶ遠くまで来てしまったようだ」と言った。
ミチルは不思議でたまらなかった。机の引き出しにヤドカリなんて入れた覚えはないし、このヤドカリは星の砂が入っていた小瓶を背負ってるし、何より喋っているのだ。
どこから質問すれば良いのか迷っていると、「ミチルはワシが変だと思っているのだろう?ヤドカリが喋るはずはないとか思ってるのだろう?」ホッホッと笑いながらヤドカリは触覚をぐわんと動かした。
ミチルはヤドカリに心を読まれたようでびくっと震えた。
「ミチルは言葉を話さなくても思ってることが全部顔に書いてあるのさ」
ヤドカリはそう言うと、くるっと向きを変え、カサカサと歩いた。
そして鉛筆立てにあった鉛筆によじ登り始めると、またミチルに話しかけた。
「相手に伝わるのは口から発せられる言葉だけではないぞ。表情、仕草、目の動き、ミチルのすべてが相手に伝わっているのだぞ」
ヤドカリはそう言うと、足をこしょこしょこすり合わせながら、「ワシはずっとこの小瓶の中で眠っておったのだ」と言った。
それはおかしいとミチルは思った。なぜならミチルはもう何十回も小瓶を傾けて星の砂を眺めていたけれど、こんなヤドカリを見たことがなかったのだ。
その時ミチルは星の砂がどこにもないことに気がつきハッとした。
「ねえ、ヤドカリさん。星の砂はどこにいっちゃったの?引き出しにもこぼれていないみたいだし…。私、星の砂が大好きなの、あれがないと困るの」
ミチルは胸の前で手をキュッと組みながら不安そうに聞いた。
「星の砂?何を言うとるのだ。今、目の前にあるではないか」ヤドカリは鉛筆の尖った芯の上に立ち、両手を高く挙げると「ワシが星の砂なんだ」と言った。
このヤドカリは何を言っているのだろうか。ヤドカリが星の砂である訳がないではないか。ミチルは「ふざけてないで教えてよ」とヤドカリに詰め寄った。
ヤドカリは目をギロリとさせてこう言った。
「今、ミチルに見えているワシは幻覚だ。お前がワシを創り出した。いいか。目に見えているものが全てではないのだぞ。もっとワシをよく見るのだ。ワシの顔、動き、しっかりと見るのだ」
ミチルはヤドカリを見た。ぐわんと動く長い触覚もギロリとした目ん玉も毛がたくさん生えた手も背中に背負っている小瓶も端から端まで見た。すると、ヤドカリがだんだん黒い大きな影になり、そこにコウタくんに上履きを隠されたことやサヤちゃんに仲間ハズレにされたこと、ミチルがお母さんに叱られて部屋で泣いている光景などが歪んだ形で映し出された。それはミチルが星の砂をさらさらと傾けて眺めていた時に心の中から消し去りたいと思っていた景色だった。ミチルはなんだか気分が悪くなり後ずさりしながらよろめいた。
「小さな小瓶にこんなに闇を閉じ込めてはいけないんだ。だからワシのような幻覚が見えるのだ。良いか。闇を詰め込んではいかん」
遠くの方でヤドカリのしゃがれた声がした。ミチルは頭を抱えながらその場にしゃがみ込んだ。
どれぐらいの時間、頭を抱えていたのだろうか。ミチルは重い頭をゆっくりと起こして部屋を眺めた。スタンドライトのあかりが部屋を静かに照らしているだけで、大きな影もヤドカリもいなかった。ただ、机の上には蓋の開いた小瓶から星の砂がバラバラと散らばっていたのだった。
ミチルは星の砂を手でかき集めるとまた小瓶の中に戻した。それから小瓶にピンクの紐をつけると手提げバッグの取っ手に括り付けた。
 
ミチルは星の砂が大好きだ。けれど、もう引出しの奥にはしまわない。天気の良い日は土手の上に座り小瓶を太陽に透かして星の砂を眺めた。天気の悪い日は窓辺で雨を見ながら小瓶をころんと転がした。
そして、夜は瞬く星を眺めながら明日を願った。
 
明日になったらまた楽しいことがあるかも知れない。
 
そう思うとなんだか良い夢が見られるような気がして少しだけ幸せな気持ちになったのだった。
 
 
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