バンビのあくび

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15才の少年がアメコミを売りさばく『コミック密売人』を読みました

岩波書店のSTAMP BOOKSシリーズ『コミック密売人』を読みました。

 

コミック密売人 (STAMP BOOKS)

コミック密売人 (STAMP BOOKS)

 

 

STAMP BOOKSシリーズは海外のヤングアダルト向けの作品を刊行しているのですが、その最新作が「コミック密売人」になります。

『STAMP BOOKS』moreinfo

元々、このシリーズは友達のソントンさんが「面白いよー」と言っていたので読み始めたのですが、海外のYAってあんまり読む機会がなかったのもあってか、どれも新鮮で面白いのです。ほぼハズレはありません。

 

「コミック密売人」の舞台は1989年のブダペスト。主人公、15歳のシャーンドルは、仲間と奇妙な商売に手を染めていました。それは秘密裏に入手したアメコミを売りさばくこと。ところがコミックを提供してくれるミクラさんが失踪し、シャーンドルの人生もまた思わぬ変転を迎えます。

 

馴染のないハンガリーの話にどれほどのめりこめるかと思いましたけど、予想以上に面白かったです。

1989年のハンガリーは独裁政権下にあり、人々が生活をする上でかなりの不自由な生活を強いられていたことがこちらの本を読んでも伺えます。(訳者あとがきによると実際にはアメコミを制限するほどの強い圧力はなかったようですが)

ミクラさんと出会ったことで、アメコミを手にしたシャーンドル。アメコミの面白さに惹かれ、自分だけで読むには飽き足らず友達や知り合いにアメコミを売りさばきます。

アメコミの顧客である年上の方々との交流。15歳では足を踏み入れることのないアーティスト・カフェへ潜入した話。シャーンドルがミクラさん失踪によりアメコミを入手できなくなったことで、アメコミの顧客が騒ぎ出す場面。裏切り行為によって校長に呼び出される緊迫した状況。どれもこれもぐいっと心を掴まれ物語の世界へ連れて行かれました。

シャーンドルは父親を早くに亡くしたため、母親は党に強制的に再婚させられます。義父は横柄な人でシャンドールとは全く折り合いがつきません。

子どもと大人の狭間にあるシャーンドルの心の揺れや葛藤が痛くて切ないです。

ネタバレにもなっちゃうんですけど、シャーンドルが大好きだったお母さんは弱っていき、やがて死んでしまうのです。父も母も亡くし、横柄な義父と自分だけの生活を想像するだけでシャーンドルは絶望します。元々、義父からの愛情も感じられていなかったのに、義父から言葉ではっきり「これまで一度だっておまえの父さんになりたいと思ったことはない」と言われたのですから。

さてそこでシャーンドルはどうしたのか。それはミクラさんが失踪した理由から想像がつきます。ミクラさんは死んだ訳ではありません。ミクラさんはコミックを好んで読み、またそれらのことを雑誌に書いたりもしていたので、政府から反体制派と思われ、常に警察から監視されていました。そんな理由から仲間の手助けを受け、国外逃亡をはかったのです。

この辺の話は東西冷戦時代を理解しているとより面白いのかも知れませんね。「ハンガリー社会主義国だけれども自由な雰囲気もあり、他の東欧諸国とは少し違う」と書かれたあとがきを読み、へぇ〜と思ったくらいの私でも十分面白かったですけどね。

勇気を振り絞り、自由を求めて動いたシャーンドル。

ラストは何十年後の話になってましたけど、素敵な終わり方だと思いました。

 

約300ページで、カタカナ名前さえ問題なければさらさらっと読める物語です。

ブダペストってどこの国だっけ?」と最初に思った方も楽しめますから。ぜひ。

 

最後に。この話の中で気になった一文がありましたのでここに記しておきます。

 

「ヒーローと変人との違いは、ただひとつ。友だちがいるかどうかってことだ」

 

友だちが1人でも良いんですよ。

けど、友だちがいるかいないかはヒーローと変人の境界線って感じがしますね、たしかに。