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バンビのあくび

適度にテキトーに生きたいと思っている平民のブログです。

『探検隊は今日も行く』

つくりばなし

皆様いかがお過ごしでしょうか。

私は雨に降られることなく、ヘビに遭遇することもなく平穏な日を過ごしました。

さてさて。前回は不参加でしたが、今回は「のべらっくす」に参加します。

【第9回】短編小説の集いのお知らせと募集要項 - 短編小説の集い「のべらっくす」

なんとなくやる気が出ず、上手いこと書き進められなかったのですが、最終的に児童文学ぽい感じになりました。

お時間のある時に読んで頂けるととても嬉しいです。

***

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『探検隊は今日も行く』

 
「じゃ、家にランドセル置いたら八幡様の公園に集合だからな!」
「うん」
「わかった!」
「ラジャー!!」
 
黒いランドセルをカタカタ鳴らしながら、こども達が一斉に家に向かって走り出した。
平日の穏やかな日の午後。こどもたちの声が住宅街を駆け巡る。
 
「ただいまー」
家に誰もいないと知っていても健太は必ず「ただいま」という。
廊下をパタパタ走り、自室へランドセルを放り投げると、キッチンへ向かった。冷蔵庫を開け麦茶の横にあった牛乳を取り出すと澄んだ海のような色のコップに注いだ。音もなくコップに注ぎ込まれた牛乳を喉をごくごく鳴らしながら一気に飲み干す。口についた白いひげに構うこともなく、戸棚から飴やビスケットを取り出した。それからお気に入りのリュックを引き寄せ、無造作にお菓子を詰め込んだ。
「いってきまーす」
家に誰もいなくても健太は必ず「いってきます」という。
 
外に出ると、先ほどまで晴れ渡っていた空にどんよりした雲が広がっていた。傘を取りに帰ろうかとも考えたが、雨が降っても走れば大丈夫!なんて変な自信をみなぎらせながら健太は八幡様へ急いだ。
「健太、こっちこっち!」
八幡様にある土管の上でキムがうまい棒をかじりながら手を振っていた。
「おれ、2番かっ!牛乳飲まなきゃ良かった」
呟く健太に、白いひげが出来てるぞーと笑いながらキムはうまい棒をもう一口かじった。
ドタバタと足音を立てながやっちゃんがやって来た。やや大きな体つきのためか、すでにハァハァ息が上がっている。その後に続くようにノムケンがやってきた。
「ノムケン、ビリだぞー」
「ごめん。ごめん。お母さんがヒナも連れてけ!って言うからさぁ」
ノムケンの横にはくっつくように妹のヒナが立っていた。
「探検するのに、ヒナちゃんがいても大丈夫かなぁ?」
やっちゃんがせんべいの袋を開けながら、心配そうな顔つきでヒナを眺めた。
「大丈夫じゃねえの?ヒナちゃんは運動神経が良いからついて来られるよ、きっと」
キムの発言でノムケンは胸をなで下ろし、ヒナの顔から笑みがこぼれた。
 
「よし、全員集合したな!では、これから南町の林まで探検に行くぞ。整列!」
 
キムが号令をかけると、健太は俊敏な動きで真っ先に並んだ。ヒナ、ノムケンも後ろに続き、最後にせんべいを口に頬張ったやっちゃんがのっそりと並んだ。
小さな探検隊は手を振り、足を上げ、元気よく歩いて行く。林にたどり着くまでの道中で、キムと健太はピョンピョン跳んでいたアマガエルを捕まえようと追いかけた。ヒナは道端に咲いていた鮮やかな黄色のカタバミと真っ青なツユクサを見つけ、「歩いているだけでも探検だね」と楽しそうに言った。カタバミを覗きこむヒナを、せんべいをかじりながらニコニコ眺めていたのはやっちゃん。ノムケンは道路に車が来ないかしっかりと目を光らせていた。
 
それぞれがそれぞれの役割を持つ探検隊。
リーダーはキムだけれど、リーダーだけじゃ探検隊は成り立たない。のっぽもちびっこもせっかちものんびりもみんながいるから楽しいのだ。
 
「さあ、ついたぞ!」
今日の目的地である南町の林にたどり着いた。
「ノムケン、とりあえず休憩しようよー。喉が渇いたよ」
やっちゃんは石の上に腰掛けると、水筒を両手で抱え、ごくごく水を飲み始めた。
「やっちゃんはせんべいの食べ過ぎで喉が渇いたんじゃないの?」
ヒナの鋭い発言にみんなが笑った。
「う、うん、まあ、それもあるかなぁ」やっちゃんは頭をポリポリかきながら照れくさそうに下を向いた。手に持っていた水筒はゆらりと揺れ、こぼれた水がポチャンと地面に落ちて広がった。 
南町の林には朽ちて間取りが丸見えの廃屋があった。2辺の壁はすでに跡形もなく、屋根も屋根としての機能を果たしていなかった。大人は危ないから廃屋には近寄るなと言った。だから健太を含む探検隊はなるべく近づかないようにしていた。けれどもう我慢の限界。気になるものは気になるのだ。奥の方へ行かずとも、手前に見えている押入れ(だったと思われる)付近だけでも探索したいと健太が言うと、キムもノムケンも「よし、行こう」と歯を見せてニカッと笑いながら賛成してくれたのだった。やっちゃんはあまり乗り気ではなかったけれど、みんなが行くならと終いには賛成してくれた。危ないことはしない。これがやっちゃんの条件だった。
休憩を終えた探検隊はキムを先頭に一歩二歩と廃屋へ近づいて行く。廃屋へ近づけば近づくほど健太の心臓の鼓動は速くなっていった。自分が言いだしたとはいえ、やはり怖かったのだ。
探検隊は廃屋に到着すると、かつては居間であっただろう部屋に直接足を踏み入れた。
むぎゅん。
腐った畳が水分を吸い込んでおり、気持ちの悪い踏み心地だった。先頭を歩くキムのスニーカーは数センチほど畳の中へ沈みこんだ。
「うわ、べたべただぞ!みんなも足元に気をつけろ!」
キムの声に耳を傾け、皆は足元に注意を払いながらゆっくりと中へ進んで行った。
むぎゅんむぎゅん。
足元から伝わってくる気持ちの悪さは、勢いのあった探検隊の心を少しずつ浸食していった。
「...お兄ちゃん、こわい」ヒナの泣きそうな声がした。
「....やっぱりやめておこうよ」大きな体からは想像できないほどのか細い声でやっちゃんが呟いた。重みのあるやっちゃんが水分を含んだ畳の上を歩くのはかなり困難であったようだ。
「なんだよ、せっかく来たのに引き返すのかよ。すぐそこの押入れまでなんだぜ?」キムは言った。
キムは嘲笑したように言ったつもりなのだろう。けれど、キムが強がっていることは健太にバレバレだった。なぜなら先ほどからキムは健太のTシャツの裾を掴んで離さなかったからだ。 
「わかった。とりあえずヒナちゃんとやっちゃんはここまでにしよう。ヒナちゃんは怖がっているし、1人で引き返すのも危ないからな」
健太の提案にやっちゃんはホッとした表情を見せた。ヒナは小さく頷くだけだった。
引き返すヒナとやっちゃんとは逆の方向にキム、健太、ノムケンは進んで行った。あと2メートルも歩けば押入れにたどり着く。畳に含まれていた水分は一歩踏み出すごとに心だけでなく、それぞれのスニーカーをも重くしていった。
ぐじゅんぐじゅん。
歩く音も変わってきた頃、キムの手がやっと目的地の押入れに届いたのだ。健太、ノムケンもそれに続いた。「ふぅっ」息をひとつ吐いたキムは、押入れに手をつきながら下の段をのぞいてみた。すると何かがピョーン、ピョーンと跳ねて押入れから飛び出してきた。
「うわっ、なんだ!」キムは驚いて後ずさりした。
「どうしたの?大丈夫?」廃屋の外へ脱出したやっちゃんが心配そうにたずねた。
「なんでもねぇよ!コオロギが出て驚いただけだ」キムはやっちゃんに心配されるのなんてまっぴらだ、という顔をしながらぶっきらぼうに言った。
「キム、違うよ。これはカマドウマだ」
この状況下では不釣り合いなほど冷静なノムケンの声が辺りに響いた。
 
健太は押入れの上の段をのぞいていた。上の段には片方だけの古びた軍手と壊れた箒とパトカーの形をしたミニカーが置いてあった。それから湿り気を帯び端の破れた新聞が押入れに引っ付いていた。日付をみると昭和64年と書かれていた。
「みてよ。この新聞、昭和だってよ。すげぇな。何年前だよ」健太はキムとノムケンの方を振り返り、新聞を指差した。
「昭和64年?昭和に64年なんてあったっけ?」キムは頭を傾げた。
「あるよ。平成元年と一緒の年に7日間だけあったんだ」ノムケンが得意げに話した。
「たった7日間なのか。この新聞すげぇな!」
3人は古びた新聞に目を輝かせた。なんの役に立たなくてもこれは僕たちの大発見だ!とでも思っているかのようなキラキラした目をしていたのだ。
 
ぽつり。
「あ、雨が降ってきた」ヒナがほっぺたについた雨粒を拭いながら空を見上げた。
「雨か!それはまずい。よし、発見もしたことだし、今日はもう帰ろう!」
キムは重たくなったスニーカーが畳に沈みこむ前に抜き上げながら、外へ向かって走り出した。走ったと言ってもまったくスピードは出ていないのだが、来た時よりも足取りは軽かった。健太とノムケンは目を合わせると「せーのっ!」と競争するように走り出した。足の速さなら2人はキムに負けてはいなかった。
廃屋の外に3人がたどり着いた時、スニーカーは文鎮でもくくりつけたかのように重くなっていた。
ポツポツ。
「うわ、さっきより降ってきたよ」
「こりゃ、もっと降ってくるかも知れないな。よし、急いで帰ろう」
探検隊は整列すると、重たい足を上げながらアスファルトの道を歩いて家へ向かった。少しずつ雨足が速くなってきたので、途中でアスファルトの道から近道である畑の道へ入って行った。
ザァザァ。
肩が透けて見えるくらい雨はTシャツを濡らしていた。急ぎたい。出来るだけ急いで帰りたい。そう思うものの重たくなったスニーカーはさらに雨を吸い込んで歩くたびにジュボジュボと音を立てた。
その時、ヒナが畑の方へ走り出した。ヒナはさといもの葉っぱを触ると、ブチンと音を立てて葉っぱを引きちぎったのだ。
「ヒナ、何してんだ!」ノムケンが声をかけた。
「わたし、見たの。トトロがね、これをカサの代わりにしてたの!」
ヒナはニコニコしながらブチンとさといもの葉っぱをちぎった。
静かに見ていたやっちゃんは、のっそりヒナに近づくと、ブチブチブチと音を立て、あっという間に3つの葉っぱをちぎっていた。
みんなに1つずつさといもの葉っぱを配ったヒナは、前髪から雨を滴らせながらにっこり微笑んだ。
 
 さといもの葉っぱを傘にして。
ぐんぐんずいずい進んで行こう。 
探検隊は今日も行く。
明日も明後日も探検だ。
 
さといもの葉っぱは実際のところ、あまり役には立たなかった。
だが、だれも文句を言わず、家にたどり着くまでずっと手に握っていたのだった。
 
 
 
次の日は晴れだった。太陽がさんさんと光をもたらしていた。
太陽はさといもの葉に残った雨粒をも照らした。
大きなさといもの葉に乗っかった雨粒はキラリと光ったのち、ぽとりと地面に落ちていった。
地面に落ちた雨粒はゆっくりと染みこんでいき、やがて姿を消した。
 
さあ、今日もまた探検へ行こう。