窓の外から過ぎゆく風景を眺めている時に「あ、鉄剣タローへ久しぶりに行きたい!」と私は急に思ったのである。車を運転していた母にお願いすると、母は「鉄剣タロー?懐かしいわね」と言い、すぐに鉄剣タローへ向かってくれた。
青空の下、いざ鉄剣タローへ!
「鉄剣タロー」は24時間営業のオートレストランである。
オートレストラン?なにそれ?とお思いの方もいらっしゃるかも知れないが、オートレストランとは自動販売機による食品の販売及び摂食できる設備を備えた施設のことである。
現在は全国的にもだいぶ珍しくなっているようだが、まだまだ営業しているところはあって、その一つがこちらの「鉄剣タロー」なのである。
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私が幼い頃は今ほどコンビニエンスストアがなく、夜の国道を車で走っている人々の休憩場所はこのようなオートレストランであった。
ここ、鉄剣タローには私が幼少期の頃に訪れた記憶がある。やや薄暗い店内にピカピカ明かりを放つ自動販売機がいくつも並び、若者や家族連れがカップラーメン食べたり、ハンバーガーを頬張ったりしていたのだ。ゲーム機に夢中になっている方々を遠目に見つつ、私は母の手を握りながら恐怖心と戦っていた。ゲームセンターは不良の溜まり場と言われていた時代に、ゲーム機のある場所にこどもが足を踏み入れるのは勇気がいることだった。
「親がいるし、ここはゲームセンターじゃないし、トイレに行きたいから寄っただけだもん!」自分に言い聞かせて、用を済ますと逃げるように店外へ出て行った私。
あの日からずいぶん経った今、もう何も怖くはない。
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鉄剣タローの駐車場は県外ナンバーの車で埋まっていた。様々なメディアで取り上げられたり、園子温監督の「TOKYO TRIBE」のロケ地として使われたことにより、知名度がグンと上がったためであろう。
県外ナンバーの間に堂々と地元ナンバーの車を止め、降り立った私達。
こども達は鉄剣タローに想いを馳せることもないため、ちょっとしたアミューズメント施設に来た時のように嬉しそうにずんずん進んでいく。
ドアを開け、店内へ足を踏み入れた。
右手は「TOKYO TRIBE」で使用されたスペースが広がっており、左手奥には懐かしのゲーム機が何台か置かれている。前方奥に懐かしき自動販売機とジュースの自動販売機が並び、中央には4、5台の丸テーブルがあった。席はほぼすべて埋まっており、鉄剣タローの人気を再確認したのだった。
懐かしき自動販売機とはこういった自動販売機のことである。
うどん、そばの自動販売機。
うどんの食べ方、注意事項、はしの場所に至るまで張り紙で親切に教えてくれている。最近の自動販売機は機能がすごすぎて何処を押したら良いか迷うことがあったりなかったりするのだが、ここでは田舎のおばさんが何でもお世話を焼いてくれるような優しい雰囲気の張り紙により、迷うことなくうどんを食せるのである。
その他に、チーズハンバーガーやトーストの自動販売機もあったりする。
ちなみに私は昼食後に訪れたため、どれも食していない。急に行こうと思い立ったため、お腹に入るスペースが残っていなかったという大失態を犯したのだ。よって、食べ物の写真がないため、その辺が見たいよっ!という方は最後に貼ったリンク先などを参考にされたら良いと思う。
こちらのアイスの自動販売機は残念ながらすでに役目を終えていた。それでもアイスが食べたい!と自動販売機にかじりついている女の子がいた。食いしん坊なんだろうな、可愛いな、と眺めていたらなんと!私の娘だった。
この後、別の店でアイスを買わされたのは言うまでもない。
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「鉄剣タロー」という名の「鉄剣」はおそらく近くにある埼玉古墳群(さきたまこふんぐんと読む。「さいたま」と読んではいけない)にある稲荷山古墳から出土された金錯銘鉄剣(きんさくめいてっけん)が由来なのではないかと私は推測している。そうなると「タロー」がなんなのか?という疑問がわくのだが、そこは誰かに調査を託したい。
調査の一環として、皆も鉄剣タローに立ち寄って、うどんやトーストを食したら楽しいのではないだろうか。
私も次に訪れる時にはお腹の中をすっからかんにして、うどんもチーズハンバーガーもガツガツ食べてやるのだ。
この夢がある限り、私は明日も明後日もそのまた次の日も、生きていけるような気がしているのだ。
参考: