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バンビのあくび

適度にテキトーに生きたいと思っている平民のブログです。

お楽しみは一番最後にとっておきましょう

なにもかもがなくなって更地のようになった地にうずたかく積まれていたのは、海水に浸かり、もう生きることのない車の数々だった。

あの時に見た車の山をおそらく私は忘れることはない。

 ***

穂高明『青と白と』を読んだ。

故郷仙台を激震と大津波が襲った。東京の「私」はその時、テレビを見ながら携帯電話を握りしめていた――。宮城県出身の気鋭作家・穂高明が、5年間迷い苦しみながら書き上げた魂の物語。

主人公は仙台出身で東京在住の作家、悠なのだが、著者の穂高明さんが仙台出身の作家ということもあり、文章中から穂高さん自身の思いが伝わってくるような気がした。

渦中にいる人達とその外からどう接するかわからずにいる人、章ごとに語り手が変わるため、様々な角度から生きることへの葛藤が感じられ、辛くて痛みも伴った。

だが、優しさも温かさも感じられる穂高さんらしい素敵な話だと思った。

穂高さんが書かれた『月のうた』のような家族の温かい雰囲気と、『これからの誕生日』のようなバス事故で1人生き残ったことによる、サバイバーズギルドに苦しむ女の子の葛藤。そのどちらもがこの『青と白と』から感じられたのだ。

生きるというのは難しいことであるけれど、そこから楽しみを見いだせたらどれだけラクになるだろう。

「あなたがいると楽しいよ」

そんな、ささやかな言葉だけで救われる時がある。それだけで幸せな気分に浸れる私は単純だと思うけれど、言葉そのままを素直に受け取れる「わたし」を私は嫌いじゃない。単純すぎると笑われたって嫌いじゃないのだ。

 

***

『青と白と』の文章の中に何度も若林区という単語が出てくるため、その度に心臓の鼓動が速くなった。あの時、私の友人が若林区に住んでいたからだ。

「うちから1キロのところまで来てたみたいだよ。津波が」

後からそう聞いて怖くなった。生きていてくれて良かったって思った。

 

地震が起きた時の友人の話を私は忘れられずにいる。

地震が起きた時、友人は家族と「びっくりドンキー」で食事をしていたらしい。あまりファミレスには行かないようなのだが、この時は友人の息子が行きたいと言ったので「びっくりドンキー」へ行ったようだ。みんなが注文し、息子はお子様ランチを選んだ。運ばれてきたハンバーグを皆で食べている最中、息子が「このゼリー、先に食べても良い?」と友人に聞いてきた。

「ゼリーはデザートだから、ご飯もハンバーグも食べ終わってから最後にしよう」

 友人は息子へそう言った。

デザートは最後。お楽しみは一番最後にとっておきましょう。

息子は素直に納得し、またハンバーグを食べ始めた。その時、地震が起きた。

テーブルの下に隠れたが、なかなか揺れがおさまらなかった。揺れがどうにかおさまってから、すぐに避難するように指示され店を出た。避難した後で、息子は「ゼリーが食べられなかった」と言った。

 

最後のお楽しみが食べられなかった。けれど、やはりゼリーは一番最後でしょう?

そう問う友人に私は「うん、ゼリーはやっぱり一番最後だと思うよ」と伝えた。

 

これからいくらでもお楽しみはあるから。

だからお楽しみは一番最後にとっておきましょう。

 

青と白と

青と白と

 

 

 

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