それはある日、私のTwitterタイムライン上に姿を現した。
なにやら面白そうな雰囲気がぷんぷん漂っており、今すぐ欲しい!とまではならなかったものの、どこか気になる存在であった。その話をいつだったか忘れたけれど友人に話した。
すると、私がすべてを忘れた頃に友人が買ってきてくれたのである。
その品物がこれだ。
『渡る世間はナベばかり』
某ドラマタイトルをちょっとお借りしたような名前のこの商品は、箱に書かれているように「渡ナベ」の神経衰弱ゲームである。
はて?なんやそれ?と思われるかも知れないが世の中にいらっしゃる「ワタナベ」さんは実は「ナベ」の漢字違いがたくさん存在しており、その「ナベ」の漢字で遊んでしまおうという趣旨のゲームなのである。
『渡る世間はナベばかり』には24種類の「ナベ」が収められており、開封して軽く見ただけで難易度の高さがうかがい知れた。この時点で「ナベ」に軽く酔った。
例えば、ここに4枚並べてみたが、微妙に違うのがおわかり頂けるだろうか。
以前、友人のワタナベさんに「ワタナベさんはどのナベなんですか?」と質問したことがあるのだが、今となっては恥ずかしさしかない。だって、「ナベ」がこんなにも種類があり、繊細な違いで成り立っているなんて知らなかったのだから。あの時、友人のワタナベさんは「口がつくナベです!」と答えてくれたけれど、上の4枚もすべて口がつくのだからもう、どれだかわからない。あとでこっそり確認してみようと思った。
さて、いよいよゲームをはじめよう。
通常の神経衰弱のようにカードを広げ、息子と交互にカードを開いていった。だが、開始1分も経たずに神経が消耗し、このゲームの終わりが見えない恐怖を味わうこととなった。
1枚をひっくり返す。そしてもう1枚をひっくり返す。
神経衰弱は2枚開けた時にカードの数字や形が同じならカードを取れる訳なのだが、開いた2枚が同じ漢字がどうか瞬時には判断ができないのだ。
「これ、同じじゃない?」
「いや、点の数が違うじゃん!」
「これは合ってるでしょ?」
「いやいや、こっちはうかんむりみたいのだから違うよ!」
このような会話を幾度となく繰り返し、カードをめくっていった。
本来、どこになんのカードがあるか記憶していくのが神経衰弱の醍醐味なのだが、漢字が難しすぎてまったく頭に入ってこない。息子は半分ぐらいを終えたところで「これはもう運ゲーだわ!!!」とややあきれながら言っていた。私も軽く「やろーよ♪」と始めたけれど、とんでもないモノに手を出した感が否めなかった。
結局、たった48枚のカードをすべて当てるのに30分かかった。
ゲームを終えた時、「消耗」という言葉が頭の中をパタパタと鳥が飛ぶようにいくつも飛び回っていた。もう、それだけしか思わなかった。ある意味、すごいゲームだと思う。
だが、私は敢えてこのゲームをみなさんにしてもらいたい。
よく、恐怖体験を一緒に行うと吊り橋効果でお互いの距離が近くなるという話を聞くのだが、これもそれに近いものがあるように思ったのだ。終わりの見えない恐怖を味わいつつ、神経をすり減らして消耗したのち、終えた時の達成感がそこにあるのではないだろうか。私は「消耗」の二文字しか浮かばなかったが、これからお近づきになりたい方と一緒に遊べば、「イエーイ」とハイタッチをして終われるのではないだろうか。
ただひとつ気をつけねばならないことは、相手が気が短い方だと逆に振り切れて嫌われる可能性があるということだ。
仲良くなるか、嫌われるか。
そんな賭けもできる「渡る世間はナベばかり」で暑い夏を乗り切ってみるのも楽しいのではないだろうか。
さあ、私ももう少し「ナベ」に興味を持って精進していこう。
まずはこれをくれた友人と友人の「ワタナベ」さんには相手をしてもらう予定なので覚悟しててほしい。
きっと終えた時に違う世界がみえるよ!!