バンビのあくび

適度にテキトーに生きたいと思っている平民のブログです。

妹のように可愛がってくれたヒト

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高校生の頃のある夏の日の夜。

家に兄の友人、フミくんが遊びに来ていた。兄の部屋から時折もれる二人の笑い声を聞きながら、すでにお風呂をすませた私はパジャマ姿で本を読みながら自分の部屋をごろごろ転がっていた。しばらくすると、兄がやって来て「フミくんが私とも話がしたいって言ってるから来てよ」と言った。フミくんは同じ中学で顔見知りだし、何回も話をしたことはあるので「いいよー」と軽く答え、本を置いてから兄の部屋へ行った。

「よぅ!」

久しぶりに会ったフミくんは私が思っているフミくんとまったく変わっていなかった。私とフミくんは同じ市内にある男子高と女子高に通っていたため、「あそこのお店はうちの女子高生がよく行くよ」などの地域ネタで盛り上がっていた。すると、兄が「ちょっとふたりでしゃべっててー」と言いながら部屋から出ていった。

お兄ちゃんは話に入れなかったから面白くなかったのかなぁ…でもそんなことを気にする人でもないな、などと私がぼやっと考えている時にフミくんは言った。

「あのさ、兄ちゃん、年頃の2人だけ残して部屋を出ていくのおかしくね?」

その言葉がなんだか妙に不思議な言葉のように聞こえた。

私は年頃なんだなぁと遠くの人のことのように思いながら、フミくんの発言と私とフミくんの立ち位置がゆらゆら揺れて見えた。

「あ、本当だね。お兄ちゃん、そういうとこあるよねー。ちょっとは気にしなよね、あはは」

思っていることの大半を表に出さず、私はそう答えた。

 

その後に私は自分がパジャマだったということに気づき、ひどく恥ずかしくなったのだった。

 

 ***

私が通っていた女子高の子達の多くは近くの男子高の文化祭へ行くことを楽しみにしていた。私も同じ部活の子に誘われて男子高の文化祭へ行くことになった。

張り切っている女の子に連れて来られた冴えない子の図にぴったり当てはまっていた私は、周りをきょろきょろ見渡すも、「あそこの部屋はなんだろう」「うむ、女子高とは違うにおいがする」などとまったく男子には目もくれず、知らない場所へ来たことを純粋に楽しんでいた。

「お、妹じゃん!」

突然、聞き覚えのある声が私の耳にすーっと入ってきた。フミくんだった。

「来てたんだー」問うフミくんに「うん、友達と一緒に。けど、私はフミくんの妹じゃないんだけど?」と笑いながら答えた。

「まあ、似たようなもんよ。あ、ヤスもいるよ!」

フミくんが指差す先には兄の友人であるヤスくんが「よ、妹!」と言いながら手を振っていた。まったく私にはどんだけ兄がいるんだ?と少々呆れながらも内心はちょっと嬉しかった。

その時、ふと、違和感を覚えた。

「あっ!ヤスくんはこの高校の生徒じゃないじゃん!!なんでこの学校の出し物の輪に入ってるのよ!」

そう、ヤスくんはこの男子高生ではなく、別の高校へ通っていた人なのだった。

「あー、いいのいいの。うちの高校、文化祭に力を入れてないし、こっちの文化祭に紛れてた方が可愛い女の子に会えるしさー」

 「え?それってありなの?」と問う私にフミくんとヤスくんは声をそろえて

「あり、でしょ!!」と答えた。

 間髪入れずに答えるふたりが面白くて本当にバカだなーと思いながら私は笑った。

私と一緒にいた友達も笑っていた。

 

「そういえば妹は誰かに声かけられた?」

突然、フミくんが尋ねてきた。

「ううん。そういうの全然興味ないし」

「あ、もう、これだから妹は!興味があるとかないとかじゃないの。いい?文化祭は変な男が寄ってきたりするから気をつけるの!わかった?変なヤツに声をかけられたら言って。なんなら、俺の名前出していいからね」

 「う、うん」

あなた達こそ変なヤツなのではないのか?と疑問に思わなくもなかったが、何かあったら声をかけて良いのだという安心感が私を包み込んだ。

 

***

私にはいつも実の兄だけでなく妹のように可愛がってくれる人達がいた。特になにかはなくとも、言葉をもらえるだけで十分だった。今になって思うとずいぶん恵まれていたような気がする。

 

終わりが見え始めた夏の、儚い空気に触れていたら、そんな出来事を思い出した。

 

 

 

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