車で信号待ちをしていたら、歩道を歩く親子が目に入ってきた。お父さんは左手に買い物袋を提げていた。女の子は小学校低学年ぐらいで快活そうに見えた。
ふたりは手を高く挙げて向かい合い、じゃんけんをしていた。
女の子が勝ったらしく、大股で跳ねるように数歩進んで行った。
グリコ。チヨコレイト。パイナツプル。
そう、言いながら歩いていることは容易に想像できた。
女の子は立ち止まるとお父さんの方へ振り返った。お父さんはにこっと微笑み、また手を高く挙げてじゃんけんをした。
チヨコレイト。
女の子が勝ったようで、大股で楽しそうに跳ねて歩く。
次も同じ動作を繰り返したのだが、また、女の子がじゃんけんに勝った。
パイナツプル。
お父さんと女の子の間がどんどん広がっていく。
女の子は得意そうに跳ねる。お父さんさんは苦笑いだ。
ふたりの距離が広がる一方なので、お父さんは先ほどよりも高く高く手を挙げてじゃんけんをする。左手に持った買い物袋がカサカサと音を鳴らすように揺れているのもかまわずに。
グリコ。
やっとお父さんが勝ったようだ。けれど3歩。まだまだ女の子とは距離がある。
そこで、信号が変わったので、私は車を走らせた。
どこまでじゃんけんを続けるのかな。
お父さんは追いつくかな。
勝手な想像をした私は小さく微笑んだ……はずだったのに、泣きそうになっていた。
青い空とふたりの笑顔はとても眩しかった。くらくらした。
手にしたいあたたかさのカタチを見たような気がしてきゅっと苦しくなった。
直線道路を走っているはずなのに、見える景色は歪んでいて、青い空と不釣り合いだと思った。交差点を曲がり、建設中のショッピングモールを眺めたとき、先ほどよりも景色がはっきり見えはじめた。
グリコ。グリコ。グリコ。
少しずつしか進まないけれど、進んでいれば追いつくかな。手が届くかな。
私も手を高く挙げてこの手で掴み取ろうかな。
這ってでも進んでいれば届くと思いたい。今は。
グリコ。チヨコレイト。パイナツプル。