「うち、ピンクの髪やからすぐわかると思うねん」
その昔、某音楽サイトで知り合ったナツコと会うことになり、顔をみたことがないのにわかるかしら?と尋ねたらそう言われた。実際に会ってみるとナツコの髪は確かにピンクだったけれど、ビビッドな色を想像してややビビッていた私を落ち着かせるぐらいにはきれいな色のサーモンピンクだった。
ナツコは古着屋でバイトをしていて、服装も独特であった。今までに私が出会ったことのないような子で接点は同じバンドが好きなことだけであったが、お互いに気が合うと早い段階でわかりあっていたように思う。某音楽サイトでは10人以上の人とあったけれど、ナツコ以上に気の合う子はいなかった。
関東在住の私と関西在住のナツコが会うのは好きなバンドのライブであり、東京で会うこともあれば、大阪や名古屋や石川だったこともあった。
その頃何をそんなに話していたのかまったく覚えていないのだが、石川で会った日にナツコが突然、言った。
「あんな、うちな・・・在日やねん。中国人やねん」
話の途中で何を言われたのかすぐにはわからなかったのだが、言葉の意味を理解した私は 「ふーん。そうなんだ」と答えた。
「驚いたりせえへんの?」
「別に。何とも思わないけど?」
「良かった。そう言ってくれると思った!」
ナツコはホッとしたような表情でにこにこ笑っていた。
私にはナツコの言ったことは何県出身であるとか、好きな食べ物がなんであるとか、そういったことと同じくくりの話としか思わなかった。私はナツコが好きだった。
ある時、ナツコが「中国に留学するねん」とメールで報告してきた。
親も姉も中国語が話せるのに自分だけ話せないのは…ってずっと思ってきたから勉強したいねんと書かれていた。
それっきりナツコと会っていない。
***
温又柔「真ん中の子どもたち」を読んだ。言葉は平易で読みやすいのだが、文のつながりでいまいち読みにくいところもあった。内容としては「母語」と「国境」について考える機会を与えてくれる青春小説であった。
第157回芥川賞候補作だし、長い話ではないので気になった方は読んでみると良いのではないかと思う。
読んでいる途中から私はナツコのことを思い出していた。
「夏生まれだからナツコって言うねん。単純やろ?」
いつかまたナツコに会えることを願っている。