昨日、子どもの本屋さん「メリーゴーランド」の店主である増田喜昭さんの講演を聞きました。
こんな機会はあまりないので、ものすごく楽しみにしておりましたが、私の期待以上に楽しいお話ばかりであっという間に時間が過ぎ去っていきました。
せっかく色々なお話を聞かせて頂いたので、こちらに記録代わりに残したいと思います。
話のメインは『こどもと本の関わり方』でした。
まず、子どもが本を読む子になるかどうかは10歳くらいまでに決まるとおっしゃられていました。
この年齢ぐらいまでの子どもは、本能で動く事が多く、大人では理解出来ないことでゲラゲラ笑ったりします。その感性があるうちたくさんの本に触れること。また、たくさんの経験をすることが大事だということでした。
また、「厳しいようだけど、読み聞かせは「本を読んでいる」ということにはならないと僕は思っている」とおっしゃられていました。自分の手で表紙を開き、扉をあけ、興味を持って読み進めることが「本を読んでいる」と言う事になると思うからです。
私は、「読み聞かせ」は別角度からの本へのアプローチだと思っています。
自分の経験で言うと、母親や先生に読んでもらった本と言うのは、その本のストーリーより、その時の雰囲気や背景が一緒に記憶として閉じ込められていると思います。
「あぁ、あの時、お母さんは疲れていみたいだけど、この絵本を読んでくれた」
「あの先生は、この本がすごく好きなようで、楽しそうに読んでくれた」
幼少期のそんな経験はとても大事だと思うので、読み聞かせは触れ合いや温かさを育む上で有用だと感じています。
また、こんなエピソードもお話されていました。
《ある日、増田さんがお店にいるとバイクに乗った若いお兄さんがいらっしゃって「あの、『モモ』っていう本ありますか?」と尋ねられたそうです。風貌も今時の若者であったため、増田さんはついつい「あなたが読むんですか?」と聞いてみるとお兄さんはこんな話をされたそうです。
小学生の時、増田さんの講演を聞いてミヒャエル・エンデの『はてしない物語』が読みたくて読みたくて、親に買ってもらったのだけど、普段、本を読む習慣がなかったため、全くその本が読めなかった。そのままずっと本棚の片隅に置いてあった。今は大学生になったのだが、ある時、その本の存在を思い出して、パラパラめくり読み始めたら面白くて止まらなくなった。だから同じミヒャエル・エンデの書いている他の本が読みたくなった。》
この話で、増田さんは「子どもに話をする時は、その本が本当に面白い!という伝え方をするんですよ。そうすると、みんなその本が読みたくて読みたくて、たまらなくなるわけ。で、ウチのお店で買うでしょ?お店は潰れなくて済むからほんまに助かるんやわー」となんとも赤裸々なご事情を話していましたが、「でも、その買った本を読めない子、けっこうたくさんいるんですよ。それがね、何年かの時を経てこうやって読んで面白い!思ってもらえれば嬉しいよね」とも話されていました。
その時に読めなくても少し寝かせて、忘れた頃にふと読んでみると、スラスラ読めて面白かったと言うのは、子どもだけでなく大人でも経験のあることだと思います。
何年かごとに同じ本を読むと、その度に感じ方が変わるのが本の面白いところ。そして、それが愛読しているということになるのだと思います。
子どもの話を途中で遮らず、分かりづらくても最後まで子どもの言葉で話してもらい、こちらは聞き役に徹すると言う話は以前に私が書いたこちらの記事(「きいて!」に耳を傾けること〜『きいて きいて』を読んで - バンビのあくび)と通じるかなと思いました。
具体的な書名を出してお話されたのは、『はてしない物語』と『思い出のマーニー』だったのですが、『思い出のマーニー』を読むなら、ぜひ単行本を読んでほしいとおっしゃられていました。単行本には文庫本にはない河合隼雄さんの解説が書いてあるようなのですが、これがとても素晴らしいのだとか。私もまだ読んでいないので、そこまで含めて読んでみたいと思いました。
『はてしない物語』は読んだことがあるのですが、ずいぶん忘れているなぁと思ったのでまた読みます。そういえば、増田さんが手に持つ「はてしない物語」の赤い表紙を眺めていたら私が以前に書いたこちらの記事(大人にも読んでもらいたい児童書です 『つづきの図書館』 - バンビのあくび)の本、『つづきの図書館』は「はてしない物語」を意識して書かれているのではないか?という勝手な予想が出てきてしまいました。どうなんでしょうね。そんな繋がりを探すのも本を読む楽しみの一つですね。
あともう1冊、紹介されていた本がこちら。
『ずっと まっていると』
そうそう、こうしてだれかのことをまっていると、あいたい気持ちがふくふくとふくらんで、なんともしあわせな気持ちになるんです。
メリーゴーランドで行っている「童話塾」出身の大久保雨咲さんが書かれた児童書です。
とても幸せな気持ちになれますよ。
うちにあるのは、サイン本でした。
増田さんはこの本を朗読して下さいました。読み始めてしばらくすると「読んでみたら長いな!」と笑いながら言ってましたけど、大人になってから読み聞かせてもらうことは少ないので楽しかったです。
このような感じで、大人が出来る子どもと本の関わりの形成、また大人が楽しく読むことで子どもも楽しくなる事を再確認させて頂きました。
終始、笑いの多い公演で良い時間が過ごせたと思っております。
***
ここからは増田さんがお話しされた面白いエピソードを紹介したいと思います。
長く子どもの本屋を開いていると、色んな作家さんともお知り合いになるようです。
ある時、増田さんは夢の中で谷川俊太郎さんのご自宅へ行ったそうです。暖炉の上にはなぜか埴輪があり、家の真ん中に川が流れていて…のような夢の中でよくある非現実っぽい設定で、そのことを谷川俊太郎さん、ご本人にお話ししたら「キミ、面白いね。1度、ウチへいらっしゃい」とお誘い頂いたのだそうです。ビックリしながらも、こんな機会逃してはいけないと、増田さんは谷川さんのお宅へ伺いました。家の中へ入ってびっくり。暖炉の上には埴輪が置いてあったのです。
「谷川さんってば僕がそんなはなしをしたから埴輪なんて置いて〜」
「いや、それはもう父の代からそこにあるんですよ。だからキミを家に呼んだら面白いと思って」
そんな偶然?必然?なことが起こるものなんですね。それも縁なのでしょうか?面白い。
また、こんな話もありました。
その頃からタモリさんのことが好きだった増田さんはご挨拶に行きました。
「増田と言います」
「キミ、何の仕事をしているの?」
「子どもの本屋をやっています」
「子どもの…っていうと宮沢賢治とか?」
「ええ、まぁ…」
それがとても素晴らしかったのだとか。
突然、出会ってその場でそれが出来る事もスゴイですよね。
タモリさんと言えば赤塚不二夫さんの葬儀での白紙の弔辞を読んだ話も素晴らしいと思いましたけど、昔からそう言った洒落のある機転の効いた行動の出来る方だったのだなと知ることの出来るエピソードだと思いました。
***
そんな余談話も、もっともっと聞きたかったのですが、時間が…あぁぁ(笑)
またいずれ、機会があったら聞いてみたいなと思っています!
- 作者: ミヒャエル・エンデ,上田真而子,佐藤真理子,Michael Ende
- 出版社/メーカー: 岩波書店
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