バンビのあくび

適度にテキトーに生きたいと思っている平民のブログです。

不思議な空気に纏われた『をちこちさんとわたし』を読みました

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『をちこちさんとわたし』を読んだ。

表紙が綺麗だ。

ただそれだけの理由で手にした本は、それだけの内容で終わるような本ではなかった。

菊は自分が誰だかわからず、気がついたときには手相で生計を立てている遠近(おちこち)さんと一緒に暮らしていた。古い日本家屋。外には枇杷の木があるような家で。

「私は遠近さんに監禁されているのかも知れない」

そう、考えている菊に誘導されるかのように、遠近の動き1つ1つを気にかけながら読み進める。

真実をつきつめることは果たして幸せであるのかはわからないが、皆が少しずつ痛んでいる切ない話。

菊とモチ、遠近さん、常葉、合歓子、初瀬…どの人のこともよくわからないような気がして、「誰か読んで私に説明して」と言いたくなった。

 

この物語の良さは終始漂い続ける不思議な空間と綺麗な日本の言葉達にあるように思えてならない。

まず、登場人物の名前や質素な生活が垣間見れる描写から、一昔前の時代設定を頭に浮かべたのにもかかわらず、地下鉄に乗ったりするので、時代設定がこんがらがってわからなくなる。間延びして退屈しそうな場面があるのに、言葉の魅力を追っていくうちに先を急いで読んだりする。不思議な感覚だ。

出てくる言葉の数々をいちいち調べたりもした。

色の表記が日本名ばかりなのだが、中でも「利休鼠に染まった薄明るい闇」が気になった。

こちらの色見本で色を確認。緑がかった灰色だった。

 和の色 - 色の名前と色見本

色見本を眺めていたら「◯◯鼠」のように、鼠を使った色の名前が多く不思議に思った。どうやら四十八茶百鼠という江戸時代の町人が編み出した染色バリエーションのようだ。北原白秋は「利休鼠の雨がふる」と歌い、こちらの本では闇の色として使われる。微妙な色合いを楽しめるのは気持ちの良いことだと思った。

菊が黄金虫の「ぶいぶいさん」と友達になり、話をする場面があるのだが、ぶいぶいさんはこんなことを話していた。

「あたりは枇杷やら紫式部、金雀枝に木犀、躑躅、山葡萄に無患子も(略)」

さて、漢字表記の植物がいくつわかりましたか?

正解はびわ、むらさきしきぶ、えにしだ、もくせい、つつじ、やまぶどう、むくろじ、なのだが、平仮名にしても頭に浮かんでこない植物があり、どんなものか調べてしまった。その辺にあるのに気づかなかっただけかも知れぬ。

 

また、この本は細かな章に分かれているのだが、章名にあった『雨障』という言葉が美しいと感じた。

『雨障』は「あまつつみ」と読むのだが、 雨に降られて外に出られず、閉じこもっていることを指す言葉らしい。

こちらにある雨の言葉一覧が面白かった。

 http://www.ameagari.jp/ame/ame_kotoba.html

もうすぐやってくる雨の季節に、このような言葉を使えたら表現に幅が出来て良いかも知れない。

 

『をちこちさんとわたし』は素敵な空気に纏われた本であることには違いないのだけれど、うまく言葉で表現することが出来ない。

読めばわかるとしか言えないのだ。

 

ただ、「おみおつけが飲みたくなる」本だということは間違いないと思うのだ。

 

 

をちこちさんとわたし

をちこちさんとわたし

 

 

今週のお題「最近おもしろかった本」