バンビのあくび

適度にテキトーに生きたいと思っている平民のブログです。

寺地はるなさんの『今日のハチミツ、あしたの私』を読みました

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寺地はるなさんの『今日のハチミツ、あしたの私』を読んだ。

恋人の故郷である朝埜市で、蜂蜜園の手伝いを始めることになった碧。蜜蜂たちの暮らしの奥深さを知る日々のなか、十六年前に自分の人生を助けてくれた不思議なできごとを思い出す――。草木がゆたかに花を咲かせる小さな町。不器用な家族の愛が心にしみる、書き下ろし長篇。

『今日のハチミツ、あしたの私』は前作『月のぶどう』と同様に、田舎と手作りと家族の風景がくっきりと見えてくる作品だった。

主人公である碧は、パッとした人ではないのかも知れないけれど、芯の強い女性だ。結婚を予定していた相手がふわふわしていても、碧は「彼は彼、私は私」と割り切って動くことができる。新しい地へ行くことになったのは相手の都合だけれども、それに従った以上、碧はうまく行かないことも相手のせいにはしない。自分で自分の居場所を懸命に切り開いていく様は強くて美しいと思う。対して、碧を連れてきた彼、安西の方はどうだろう。確かに父親が話の通じない相手なので、辛いだろうことはわかるけれども、「碧ばかり楽しそう」と不機嫌になるのはいただけない。

近しい間柄の人が新天地で(もがきながらも)楽しそうにしているのは、恋人として喜びに通じるのではないかと私は思う。だが、それも「恋人に余裕があれば」の条件付きなのだと読み進めればよくわかる。

まあ、私自身、知らぬ土地へ来て、この地へ順応(今もしているかは定かではない)するまでの不安と戸惑いは、口には出さないまでも、少しは相手を責めてしまっていたような気がする。私が来ると決めたことなのに、不安になるばかりで、切り開くほどの余裕がまるでなかった。

「この辺の人じゃないですよね?」

何度言われたことだろう。相手にとってはただの挨拶程度の言葉だとしても、いつまでもよそ者扱いのような気がして、いったいつになったらココにいても良いと思えるのか不安で堪らなかった。今もその言葉は時々投げられるけれど、不安がだいぶ削られているので、なんとも思わない。気持ちが弱いとちょっとした言葉でもズケズケ刺さるもんだと思い知らされた。

 

さて、タイトルにも入っている「ハチミツ」がこの話の一番の鍵である。碧が中学生の頃に出会ったハチミツは、味わいもさることながら、その優しさが甘く優しい記憶として碧を支え続けた。「食べること」の重要性を説かれ、碧は健気にも守り続けた。辛い時も何かひとくちでも食べる。食べなければ元気も出ない。

食の重要性については私も高校生の頃に思うところがあり、その後の栄養学を学ぶことへつながった。生きていく上で必要なことを学ぶのは、現在直接その職に携わっていなくても糧になっていると感じられる。

 

人とのかかわり、親子であってもわかりあえないこと、田舎特有の噂話の数々、ここに書きたいことはたくさんあったけれど、本文中のこのセリフを私は留めておきたい。

「蜂蜜をもうひと匙足せば、たぶんあなたの明日は今日より良くなるから」

 

蜂蜜はそのまま蜂蜜でも良いだろうし、蜂蜜に代わるような好きなものでもいいと思うのだ。

 明日は今日より良くなる。未来に希望を持ちたい。

 

はるなさんの本が発売されるたびにつたない感想を書いていて思ったのは、私にとってはるなさんが書く小説は優しさと温かさだけで形成されているものではなく、思わぬところで私のグダグダした部分を蜂のようにチクチク刺してくるとんでもねぇモノってことである。

登場人物の動作が、言葉が、いちいち「うわっ、それ、私のことやん!」とチクチク攻めてくるのだ。痛いところを本当に突くからまいっちんぐって話で、それでもやめられなくて今回も一気読みした次第である。作者の思うつぼなのだろう。ずぼぼ。

このままやられっぱなしってのもアレなので、どこかで蜜蜂並みの秘儀、熱殺!をかましたいところだが、それだと私もくたばってしまうので、このままつぼに入っていたいと思うのだった。ずぼぼ。

 

 

***

それから、『今日のハチミツ、あしたの私』を最初に見たとき、表紙の絵が可愛らしいなと思った。本を手に入れ、装画に「西淑」の名が書かれているのを発見し「はるなさん、すげっ!」と思わず声を出してしまった。西淑さん、前からけっこう好きで、レターセットなどを購入し、使用しているのだ、私。カバーをはずしたところにいる蜂も可愛かった!

ちなみにこちらが西淑さんのレターセットです!

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それともう1つ勝手に思ったのだけど、ひと匙のハチミツ、ひと匙の幸せからこちらの本を思い浮かべました。

 

【新装版】 365日のスプーン

【新装版】 365日のスプーン

 

 

 

今日のハチミツ、あしたの私

今日のハチミツ、あしたの私