私が通っていた中学校は白飯は家から持参し、おかずのみを業者が届けるというかたちをとっていた。業者から届けられるおかずは何度も使ってだいぶくたびれているような容器(お弁当箱)に入っていた。
容器をあけると中は3つに仕切られており、メインのおかずと副菜が彩りよく……ではなく、時間がなくて慌てて詰めたかのような姿でおさめられていた。私たちはおかずの容器を取りに行く際、容器の周りじっくりみて、おかずが蓋からはみ出していないものをなるべく選んでいた。皆が容器を持ち上げてぐるりと見ている様は滑稽であった。
おかずはたいてい冷めていた。冷めているにも関わらず、カレーがメインの日などがあり、ほとんど手をつけなかったのを覚えている。というより、私は揚げ物など、固形になっているようなおかずしか食べていなかった。なぜかと言えば、煮ものやあえ物には容器のにおいが移っていて、とてもじゃないけど食べる気がおきなかったのだ。どのおかずも同じようなにおいしかせず、果てには蓋を開ける動作だけで胃液がこみあげてきてしまうくらい気持ちが重たくなっていた。
おかずが期待できないので、私はおのずと家から持参した白飯を食べてお腹を満たしていた。この持参する白飯については学校から「白飯を持ってくること。ただし梅干し1つまではOK」と決められていた。だが、おかずがあまりにも不評なため、みんな様々な工夫をしていた。たいていは、おかずの酷さをこどもから聞いた親がしてくれたものであったが、白飯と白飯の間に色々なものを挟んで持たせてくれていたのだ。オーソドックスなものは見た目のかさが増えないふりかけであった。白飯の上にふりかけをかけて、その上に白飯を入れるというかたちで、口に運ぶ際も上手くやればバレることはなかった。バリエーションとしてはそぼろ、錦糸卵といったところであったが、果てには焼肉を挟んでくる強者も現れ、この辺りで教師の目が光り出した。持参する白飯が問題ないかチェックを始めたのである。先生も同じおかずを食べていたので、おかずの酷さはわかっていたと思うが、立場上そうせざるを得なかったのかも知れない。
そうして、また、白飯に梅干し1つだけでお腹を満たす日々が始まった。
私は中学生活のうちの2年間をほぼ白飯だけの昼食で過ごした。運動部に所属していたので、帰宅する頃にはいつもお腹を空かせていた。他の人もそうだった。
3年生になってしばらく経った頃、やっと念願だった給食センターができた。運ばれてくる給食はあたたかく、陶器のお皿で食べることができた。
「小学校の時の給食よりはおいしくないね」
誰かがそんなことを言っていた。確かにそうかも知れない。
けれど、白飯のみで過ごしてきた期間を思えば比較できないほど、私たちはお腹も心も満たされていた。
のちに私は保育園栄養士になった。
その際に作った給食だよりのタイトルは迷わずにコレにしたのだ。
「たべるのだいすき」
学校生活の中で一息つける給食はできるだけ楽しく過ごせる時間であってほしいと思う。
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たべるのだいすき!―みんなげんき (げんきをつくる食育えほん)
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