バンビのあくび

適度にテキトーに生きたいと思っている平民のブログです。

京都へ行った日記。「博物館の夜」

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京都へ行った。目的は寺尾紗穂さんと七尾旅人さんのライブだ。ライブは夕方なので、その時間まで街を歩いた。「街を歩いた」の言葉どおり、私は京都駅から地下鉄もバスも使わずにひたすら歩いた。まずは鴨川に向かって。

鴨川には鴨、鷺、雀、烏、鳩など、さまざまな種類の鳥がいた。最近、雀を見ることがなかったので近くまで寄ってくる雀を立ち止まって見つめた。

鴨川沿いは犬の散歩やジョギングをする人の姿があった。ゆるやかな流れの上をのんびり進む鳥を、こんなにゆったりとした気持ちで眺めたのは久しぶりだった。しばらく歩くと、親と子ども2人が何やら話している家族がいた。どうやら年賀状用の家族写真を鴨川バックに撮っているようだ。「このポーズいいよ!」皆が笑いながらわいわいやっている姿が微笑ましかった。

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「うらやましい」まではいかないけれど、私もそんな家族を夢見たなって思っていた。

夢は夢なのだから、いつまでも心が安らぐような柔らかな毛布にくるまれている夢を見続けようと思った。希望は捨てる気はない。

 

お昼からnowakiへ向かった。完全予約制のミロコマチコ個展 「けむくじゃらのうろこ」を観たのだが、絵から溢れる生命力に圧倒された。nowakiの方が、丁寧に説明して下さったので、より深く絵を理解することができた。ミロコさんの絵本は何冊か持っているけれど、原画を観たのははじめてだったので、キラキラした絵の具がとても印象的だった。印刷するとそこまでのキラキラが出ないらしい。

また、木や布に直接描いている作品が風合いがあり、とても良かった。経年すると味わいが変わるとの説明を受けた。何年か後に同じ絵を観たいと思ったが、購入するには少々お高く、心に焼きつけることにした。

nowakiは靴を脱いであがる、小さなお店で心が和んだ。

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ミロコマチコさんの展覧会「いきものたちはわたしのかがみ」図録を購入した。読みごたえがあって素晴らしい。サイン入りだと言われ、巡回を待たずに購入した。重たかったけど、嬉しい重みだった。

そのあと、前から行きたかったメリーゴーランド京都へ向かった。四日市にあるメリーゴーランドには何度も行っているが、京都店ははじめて。調子に乗って建物5階まで階段を使ったら、思った以上に息があがってしまい、はぁはぁしながら入店することとなった。はずかしい。

こじんまりとしたお店には、選びぬかれた絵本、児童書、文芸書などがあり、棚をじっくりと眺めた。しばらくすると、京都店の店主、鈴木潤さんがいらっしゃったので、エッセイを読んだことを伝えた。直接お伝えできて良かった。

メリーゴーランド京都店はミナペルホネンと同じ建物に入っていたため、せっかくなのでミナペルホネンにも寄ってみることにした。ミナペルホネンのテキスタイルは大好きなのだけど、ちょっと手が出ないお値段なので見るだけのつもりだったのだが、入ってすぐ、このバッグにひとめぼれをしてしまった。f:id:bambi_eco1020:20201223094318j:imagef:id:bambi_eco1020:20201223094332j:image

このバッグは鐘のかたちに似ているため、ベルバッグと呼ぶのだと店員さんが教えてくれた。4つのテキスタイルで作られたものはこの期間限定で、私が訪れた前日に入荷したとのこと。値段を確認したら、ミナペルホネンにしては手が届くものだったので思いきって購入した。この先、もうミナペルホネンを購入することはないかもしれないけれど、このバッグを眺めるしあわせはあっても良いなと思ったのだ。

バッグを袋に入れてもらっているあいだ、店員さんと話をした。

「今日はライブを観に京都へ来たんですよ」

「何のライブですか?」

寺尾紗穂さんと……」

「あ!寺尾紗穂さんと、七尾旅人さんのですね!京都文化博物館の!」

店員さんは、私が行く予定のライブをご存知だったようで、会話が弾んだ。

「楽しんできて下さい」

私は友達も知り合いも少ないけれど、出会う人には恵まれていると思う。

今年は特に、出かけた先で「ずっと来たかったです」「お会いしたかったです」など、いつもなら心の内にしまっておく言葉を相手にそのまま伝えている。外出自粛などもあり、孤独を感じときに、思いを言葉にして届けることは互いにとって気持ちの良いことだと思えたのだ。

夕方になり、いよいよライブ会場の京都文化博物館へ向かう。

QRコードが入場券のため、入場がスムーズだった。

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博物館と言うだけあり、趣があった。ただ、とても寒かった。おそらく、暖房設備がないのだろう。最後までコートを脱ぐことはなく、心だけでなく体も震えた。

寺尾紗穂さん、七尾旅人さん、両者とも素晴らしかった。紗穂さんは私にとって約1年ぶりのライブだった。昨年、紗穂さんのライブと著書『彗星の孤独』を読んだことで、当時の誰にも話せずに抱えていた思いをメールに綴り、紗穂さんへ送った。驚くべきことに、返信を頂き、そこから何度かメールのやり取りをさせて頂いている。アーティストに個人的な悩みや思いを伝えるのは失礼だったなとあとから思ったが、自身のことも綴った丁寧な返信メールから紗穂さんの人柄が伝わってきた。あのとき、私を支えてくれたひとに違いなく、今回のライブは紗穂さんが歌い出したとたん、涙が溢れてきた。私のツラかった時間を思い返し「ようやくここまで来れました」とお伝えするような涙だった。めまいや不眠に何度も襲われたり、気持ちもついて来ない日が多かったが、それでも前を向いて、未来をつかむために行動した私を紗穂さんの歌声は労ってくれたようだった。

紗穂さんは曲の合間にハンセン病水俣病などの話をされ、旅人さんは少年兵の話をしてくれた。わたしたちが息をしているあいだに、何かで悩み、苦しんでいる人は大勢いる。すぐに手を差しのべることはできないかも知れないけれど、無知であることは時には罪であると思う。歩みを止めてはいけない。

おふたりの思いは言葉となり、歌われて、私の中へ入り込んでいく。

セッションの『猫まちがい』『スロウ・スロウ・トレイン』を生で聴けて良かった。それほど素晴らしかった。

 

京都の夜。

誰もいない通りをひたすら駅に向かって歩く。

自転車に乗った親子が横を通っていく。

「危ないからはじっこ走ってね」

「でもはじっこ走ったら歩いてる人はもっともっとはじっこに行かなきゃいけないからぁ」

女の子の素直な思いが静けさを割いて響いていく。

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高校生の頃。修学旅行先で朝練をしていた運動部は、京都泊の翌朝、京都御所までランニングをした。人の少ない京都の街を皆で駆け抜けた。

夜の京都を歩いていたら、あの空気を思い出した。

 

あれは、人の気配に守られた静けさ。