バンビのあくび

適度にテキトーに生きたいと思っている平民のブログです。

『くもをさがす』

部屋の壁をアシダカグモが登っていた。長い足を動かして天井に移動し、また壁を這っていく。アシダカグモは大きめのクモのため、見た目が苦手な方も多いと思うが、宿敵Gを食してくれる益虫なので、静かに見守るのがいい。私も昔はいちいち驚いていたが、今は「あら、居たのね」ぐらいの感覚で見守っている。

 

西加奈子さんの『くもをさがす』を読んだ。

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テレビでも紹介されている話題のエッセイ。主軸は西さんが「がんになったこと」になると思うのだが、がんの闘病記とまとめるのは少し乱暴な気がするので、私が感じたことを幾つか記しておく。

まず、カナダのお国柄や医療体制などを知れることが面白かった。以前読んだ朴沙羅さんの『ヘルシンキ 生活の練習』と少し似たようなイメージを持った。他国の制度を分かりやすく文章にしてくれることは、自国の制度と比較し、考えるきっかけをもたらす。全てに一長一短があるため、利用する者は選択するだけの知識があることが望ましい。日本においても必要な福祉等にアクセス出来ない方々がいるのは承知しているが、それ以上に他国では「わたし、困ってるんです!」と、声をあげられないとなかなか思うように生きられないとだなと思った。悩み事、困り事は内に留めず、発していくことが自らを守ることになる。恐れてはいけないのだ。

『くもをさがす』には闘病している西さんが自身を救ってくれた芸術(本や音楽など)の一部が引用されている。

その中でハン・ガンの『回復する人間』の引用があった。読んでみてとても驚いた。

その引用箇所は私が『回復する人間』を読み、唯一、付箋を貼った箇所とまったく同じだったのだ。

数年前、攻撃的な言葉を受け、心の拠り所もなくなり、もはや生きてるのかどうか良くわからなくなったときに『回復する人間』を読んだ。この本は私に寄り添ってくれる本だと思った。涙を浮かべながら貼った、うさぎの付箋を『くもをさがす』を読んでいたら思い出した。あのときの、あの場面が記憶から引っ張り出され、私は静かに涙を流していた。

その箇所をここに記しておく。

また、私が強くなれるように。

そして、たまたま、読んでいるあなたが立てるように。

 あなたは知らない。

 のどが渇いて目を覚ました寒い夜明け、思い出すこともできない夢のせいですっかり濡れたまぶたを洗面台の上の鏡の中に見るだろうことを知らない。顔に冷水を浴びせるとき、あなたの手が何度も震えるだろうことを知らない。一度も口の外に出したことのない言葉が、熱い串のようにのどを引き裂くだろうことを知らない。私だって前が見えない。いつだって見えなかった。がんばってきただけ。いっときでもがんばらなかったら不安だから、それで必死にやってきただけなのよ。

 

 


ハナレグミ - サヨナラCOLOR (Live at 日比谷野外大音楽堂 2021.7.22) - YouTube