バンビのあくび

適度にテキトーに生きたいと思っている平民のブログです。

たからもの


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「ことば」が喉の奥の方で止まってしまっているようで、口から外へでてこない。

自身の輪郭が見えづらくなっているのがいけない。

なにかひとつでも「ことば」を記せば動き出す気がするので他愛もないことを綴ってみる。

 

先日、食事とリーディング公演を楽しむMPADという企画に参加した。

私には一緒に行くような友達や近しいひとがいないので、今回もひとりで参加した。ひとり参加の人はひとり参加の人のみで構成された席へ案内される。その日はわたしの隣に、にこやかな笑みを浮かべる女性がいらっしゃった。ふたりがけの席だったのでわたしから彼女に話しかけてみた。何気ないことばの中から会話の糸口を探す。同時に会話を楽しみたい方なのか、静かに時を過ごしたい方なのかを判断する。ほどけた糸の先から糸電話で話をするようにひとつ、ふたつと話題を膨らませていく。柔らかく愉快に笑うその人と豪華なお弁当を食べながら、これ多くないですか、こっちにもあっちにもお肉があるし、デザートまでついててすごいですねなどと話しながらすべて平らげ、ふたりで笑った。

「よく本を読まれますか?たくさん読んでいそうな気がします」

彼女は私にそう言った。娯楽として本を読むものの、本をたくさん読んでいそうなどと言われたことは思いつく限りではなく、なんだかくすぐったくなった。食事を終え別の場所へ移動した。そこに彼女の知り合いがいたようで彼女はそちらへ向かっていった。ひとりになった私は境内の天井を眺め、大きく息を吸った。空気がしんと音がしたようだった。リーディングを観るためにふたたび食事をしていた場所へ移動した。テーブルは片付けられており、座布団と椅子が並べられていた。庭を眺めるように並べられた座布団にゆっくり腰を下ろした。闇のなかに小さな舞台があり、その上でドレスを着た女性が感情を乗せ、文章を読んでいく。いつもは目で追っている文章が人の口から発せられる音となり、冷たい空気に混じったあと私の耳に届けられる。なんとも優雅でたおやかで強かだった。美しかった。

終演後、余韻も冷めやらぬ中いちばん最初にに外へ出た。外では友人が関連の本を販売していた。朗読の世界に飲み込まれる前に現実へ足を踏み入れねばと友人の本販売をお手伝いした。ひとり、またひとりと参加者が外へ出てくる。そこにわたしの隣で食事をしていた彼女が現れた。彼女は本を購入してくれた。そしてまた、どこかでお会いしましょうとわたしの肩をぽんぽん叩いて帰っていった。

今日、はじめて会ったひとに触れられ、また会いましょうと言われたことがひとつの物語のようだった。

おそらくこの場面をわたしは忘れることがないだろう。

 

わたしの映像記憶にしまいこんだのでこの場面をわたしはいつでも取り出すことができる。そうやってまた日々の暮らしのなかで時々取り出しては落とさぬように手で包み、宝物のように愛でるのだ。

わたしのいくつかの宝物は誰にも奪われることはない。