こないだ小学校の綱引き大会があった。
近年、この時期に運動会をする学校が増えている思うのだが、うちの小学校は運動会が9月のため、この時期に大々的に綱引き大会を行うのだ。
地区対抗の綱引き大会は上位チームにお菓子の景品がでるせいか毎年かなり熱くなる大会であることは間違いない。いつも、「えー、今年も綱引き大会やるのぉ?」なんてゆるいこと言いつつ、体育館へ向かう多数の父兄もいざ試合が始まってしまえば体が痛くなるまで引っ張り合ってしまうなんとも恐ろしき大会でもあるのだ。
そんな私も頑張って引っ張っちゃいました!……といいたいところだが、右膝半月板が損傷しているため、踏ん張るとロッキングになりそうなのでハンカチの端っこをかじりながら「やりたい!やりたいよぉ…」とつぶやき、涙を浮かべつつここ数年は応援に徹している。実は、数年前に役員を引き受けた時「今年はさすがに引っ張ろうー!」と張り切って参加したら終わった時に膝がカクカクして歩きづらいわ、鈍痛があるわでひどい目にあったのでそれ以来静かにしている。本来、負けず嫌いなので出たくてしょうがないがこればかりはしかたない。
さて、その綱引き大会の話なのだが、ここ数年負けなしの絶対王者「ハチの巣地区」がいらっしゃる。ハチの巣地区と私が勝手に名付けたのだが、なぜハチの巣にしたかというと、以前、ここの地区の常任さんが「なんかね、通学路にハチの巣があったとかで、それの駆除まで常任の仕事だ!ってやらされたのよ。おかげで主人がハチに刺されちゃって大変だったわ」と話していたからである。
綱引きにおいて、ハチの巣地区は秘密の特訓でもしているのではないかと噂されるほど圧倒的な強さを誇っていた。ハチの巣地区からはAチームとBチームの2チームが出場するのだが、一昨年、昨年とも決勝がハチの巣地区同士だったくらいなのだ。
今年もハチの巣地区はリーグを順当に勝ち上がり、2チームとも準決勝まで登りつめた。ちなみに私の地区はそこですでに負けてしまったので、私の興味はどこが優勝するかに完全に移行していた。準決勝のくじ引きをし、チーム名がそれぞれ発表されると場内がややざわめいた。なんと準決勝でハチの巣地区がぶつかってしまったのである。これで、ハチの巣地区同士の決勝はなくなり、彼らはつぶしあわなければならなくなった。観客としては面白さが増したと言わざるを得ない。
先ほどまで仲睦まじかったハチの巣地区もややピリピリムードになってきたところで、試合開始。ハチの巣地区同士の対戦は思ったより差がついて、Bチームが決勝に上がった。決勝戦はミカンの山Aチーム対ハチの巣Bチーム。ミカンの山はあまり強いイメージがなく、なんとなく上がってきたような気がしたので、こりゃ今年もハチの巣が優勝をかっさらっていくのではないかと私は思いながら、決勝戦を待った。
先ほどの試合で疲れもあるだろうからと3分開けてからの決勝戦。
「ピーッ!」
笛の音とともに2チームとも勢いよく綱を引っ張った。どちらも表情からものすごい力で引っ張っているのはわかるのだが、綱が中心からまったく動かなかった。30秒のタイムアップ時にも中心につるされた赤いハンカチがまったく動かず、勝敗がつかなかった。
「おおっ、ミカンの山やるではないか!」
今年もハチの巣が優勝すると思っていた多くの人達がそう思ったに違いない。これを見て、応援の声はミカンの山へ向けたものが増えてきたようだった。ミカンの山も「もしかしたら勝てるかも知れない」という思いがどこかに出てきたようで表情がさらに引き締まっていた。
勝敗は必ずつけるので、再戦である。
1分開けてから再度「ピーッ!」という笛の音が体育館に響いた。
スタートから良い引っ張りを見せたのはミカンの山だった。
一番前にいる1年生の男の子も一生懸命綱を引き、一番後方にいたマッチョなお父さんは綱を体に巻き付けながら必死に引っ張った。
綱の真ん中につるされた赤いハンカチをミカンの山は少しずつ、少しずつ、自分たちの陣地へ引っ張った。30秒立った時、赤いハンカチはミカンの山陣地にしっかりと入っていた。
一瞬の静けさのあと、大きな歓声が体育館中に響いた。
この騒ぎにぽかーんとしていたのは今年初めてて綱引き大会に参加した保護者ぐらいのものである。初めて参加した保護者は今までのハチの巣絶対王者を知らないから何がそんなにすごいのかわからないのだ。私は小学生の保護者になってすでに8年目なので、この騒ぎっぷりもわかるし、なんだかひどく感動してしまった。
たかが綱引き大会にここまで熱くなるかとお思いかも知れないが、必死にやれば熱くなるし、必死な姿を見れば感動もする。
表彰式でミカンの山の代表者、6年生の男の子が笑顔でお菓子を受け取っていた。
彼の後ろ髪だけ長くしている髪型をみて、感動していた私の心にはやや違った感情が芽生えたが、ここではそこまで語るまい。
頑張ったことには変わりないし、素敵だと思うよ。
体育館を出て、娘と道を歩きながら、来年も楽しい綱引き大会になればいいと私は心から思ったのだ。