小学3年生の時。
それまで長かった髪の毛を「暑いから」という理由だけでバッサリと切った。
ぐだぐだと考えたりもするくせに、そんな時だけ思い切りが良いんだよなぁと我ながら思う。
私は「かわいい系」か「キレイ系」かどちらかに必ず属さなければいけないとすると、「キレイ系」の顔立ちのようで、そんな私のショートスタイルは「カッコイイ」とみんなから言われた。
イメージとしては宝塚の男役と言ったところだろうか。
「カッコイイ」
これは褒められているのかどうなのか?いまいちピンとこなかったけれど、貶されている訳でもないので「ふーん」と言った感じに流していた。
私はその頃、小学校の保健室にいる先生が大好きだった。確かクミ先生という名前だったと思う。私はとにかくクミ先生を気に入っていて、担任への年賀状はその年しか送らないのに、クミ先生には何年も送っていた気がする。
保健室は怪我より鼻血や体調不良でお世話になることの方が多かった。そんなに頻繁に利用していた記憶もないので、私はどうしてクミ先生の事がそんなに好きだったのか良く覚えていない。
けれど「クミ先生が好きだった」ということだけはしっかりと記憶しているのだ。
クミ先生は髪の毛を切った私を見て「あら、似合うわねぇ!」と言った。
嬉しかった。素直に嬉しかった。
けれど、クミ先生はそれ以降、度々私を「えこさん」ではなく「えこくん」と君付けで呼び間違える事が多くなった。
「ごめんごめん。カッコ良いから、ついつい「くん」って呼んじゃうのよ」
とクミ先生は言った。
ものすごく嫌な訳じゃないかったけれど、なんとなく・・飴玉を間違って飲み込んじゃった時のようなそんな気持ち。
家で鏡の前に立ってみる。鏡に映る私は確かに男の子のようだった。
小学生の頃はスカートをはくのがあんまり好きじゃなくて、それでもキュロットみたいなのははいていて、そんな時に「男がスカートはくのはおかしいぞ!」とからかわれた事がある。
私は髪の毛の短い自分も「悪くないよな」と思っていたけれど、周りの反応に敏感になって「やっぱりもう少し伸ばそうかな」という気持ちになっていた。
それ以降、ずっと肩より短い髪の毛にすることがなかった。
ずっとずっと。
けれど、昨年末「ちょっと切ってみようかな」とふと思った。
何かのきっかけがあったとかそんな事はなく、ただの気まぐれ。
美容室で「ショートボブにして下さい!」と言った。
肩より長かった髪の毛が、チョキチョキと切られて束のまま床に落ちる。
チョキチョキ。パラリ。チョキチョキ。パラリ。
「出来ましたよ」
鏡の中にいる自分を眺めた。
確かに髪の毛は短いけれど、当時のように「男の子」に間違われるようなそんな感じじゃなかった。
性別がはっきりと女性とわかる人が鏡の中にいた。
なんだか可笑しかった。
長い年月の中で、私は少しずつ「女性」と言うものに近づいていったのかも知れないと思った。
嬉しいようで少し残念だ。
あの時の「性別を超えた少年っぽさ」はもはや欠片もない。
いい年して少年も何もないのだけれど、「男の子みたい」と言われ、尚且つ「カッコイイ」なんて最高のほめ言葉だったんじゃないかな?と今なら思える。
もうしばらく短い髪の毛で過ごしてみよう。
夏が来て、冬が来たらまたマフラーをぎゅっと巻いたら良い。
見た目は女性でもほんの少し「少年」の気持ちを持てるかも知れないと言う
淡い期待を抱きながら。