バンビのあくび

適度にテキトーに生きたいと思っている平民のブログです。

りんごを一つ携えて

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皆様、ごきげんよう。秋の夜長、いかがお過ごしでしょうか?

私はと言えば、先日、ぜろすけさんがこんな企画をしているのを発見したため、「これは取りあえず乗っかっておかねば!」と思い、せっせっと文章を書いたり(消したり)しておりました。

創作で文章を書いたことがなかったので、あっちやこっちをフラフラと彷徨って疲れ果てていたのですが、昨日、子どもの運動会を見ながらノートにぐちゃぐちゃ書き綴って、何とかまとまった次第であります。
はっきり申し上げまして、運動会がなかったら出来上がっておりませんでした!た!
「りんご」と言うお題に沿って私が書くとこんな風になるのねー、へぇー、と自分で思いましたので、「へぇー」「何これ?」「うひゃひゃ」と勝手に思って頂ければ嬉しいです。
 
まあ、あれですね、チャレンジ精神はあったんだと言うことだけわかって頂ければ。
ぜろすけさん、そんな機会を与えてくれてありがとうございましたー♪
 
では、どうぞ。
 
***
 
静かな日曜日の午後。空は雲ひとつない快晴で、飛んでいる飛行機の白さが際立つようなそんな日だった。
 
「おやつの用意出来たわよ。一緒に食べようよ」
あかねが声をかけると、娘のほのかと一緒にブロックでゾウやらキリンを作っていた北斗が「おやつー!」と、ほのかを抱き上げ、子どものように駆け寄ってきた。北斗の手は今にも皿の上にあるおやつをつかもうとしていた。
「ねえ、ちょっと!手は洗おうよ」あかねは呆れながらそう言った。
「あっ、ほーい。ほのか、おてて洗うぞ。パチャパチャしてこよう」
急にお父さんぶった口調で北斗はそう言いながら、ほのかの背中をトントン叩いて洗面所へと促す。ほのかは電車ごっことでも思ったのか、左右の手を車輪のように大きく回しながら「がたん、ごとん」と言ったかと思うと、洗面所についた途端、「ぽっぽー!!」と大きな音の汽笛を鳴らしていた。洗面所の水がジャバジャバと音を立て始め、やがてその音が止まると、2人がまた電車ごっこをしながら戻ってきた。
 
椅子に座った北斗は「さて。いただきまーす」と言い終わるか終わらないかのうちに、おやつを手にし、かじりついた。
「なにこれ?りんご?シャクシャクしてる!つめてぇ! 」
北斗は大きく口を開け、更に一口、半身のりんごにかぶりついた。
「アップルシャーベット。知らないの?昔、給食に良くでたでしょ?」
「こんなん、出たことないよ。あかねの通ってた小学校、なんか給食良いもんばっかだよな」
 
「ほれ、ほのかも食べてみな」
北斗にそう言われ、ほのかは小さな手でりんごを掴むと、かぷりとりんごにかじりついた。
「ちめたい」
ほのかは口をひょーっとひょっとこのようにすぼめながら、北斗に向かってニタッと笑った。
北斗とあかねはお互いの顔を見合わせ、プッと吹き出した。
ほのかはそんなことはお構いなく、「おいちぃ、おいちぃ」と言いながらりんごをパクパク食べていた。
 
最近のほのかが食事をする時に発する言葉の大半は「おいちぃ」か「んべぇ…」だった。
「おいちぃ」の時は小さな口が横に大きく広がり、ほうれい線予防の口角上げのような顔でニタッと笑う。「んべぇ…」の時は顔を歪ませ、口からカエルでも飛び出してきそうなほど舌をダラリと前に垂らした。ほのかの表情は毎日毎日進化していて、あかねは「このまま行くと名女優さんにでもなるんじゃないかしら?」とどこかで思っている。だが、一般的にはこういうのを親バカと言うらしい。
 
あかねもアップルシャーベットを一口かじってみた。懐かしい味が口の中にじんわりと広がった。
 
おやつを食べ終え、北斗は横になってテレビを見ていた。あかねはほのかに『ちびゴリラのちびちび』という絵本を読んであげた。「ちびちびは大きくなってもちびちびなんだね。大きなちびちびでもみんな、ちびちびの事が好きなんだね」ほのかはそう言いながら、目をキラキラさせた。ほのかはこの絵本が大好きだった。ちびちびが子どもの時だけでなく、大人になってもみんなから愛されることが伝わるたび、同じような質問を繰り返してくる。
「ほのかが大きくなってもみんな、ほのかの事が好きかなぁ?」
「そうね。みんなほのかの事が大好きよ」
あかねはほのかの目を見て優しく微笑んだ。
 
オレンジがかった陽の光が部屋へ差し込み始めた頃、外から小学生ぐらいの女の子の声がした。
「はやくー。秋祭り始まっちゃうよー」
お友達に話しかけているのであろうか。自転車のタイヤがカラカラと回る音がしたかと思うと、あっという間に遠くの方へ過ぎ去っていった。
「あぁ、今日は秋祭りなんだね。あの鴻栄寺のところでやってる」
「お祭りか!ほのかを連れて行ってみようか?鴻栄寺のお祭りは楽しいからな」
北斗がそう言うと、ほのかは「おまつり、おまつり」と言いながら、両手を挙げて飛び跳ねた。
 
玄関で靴を履き、3人で手を繋ぎながら鴻栄寺までの道を歩いた。ほのかは色んなモノに興味があるのか目をあちこちにキョロキョロと動かしながら歩いていく。あかねがほのかの手をギュッと握ると、ほのかは目をまん丸にしてあかねを見上げた。
「やる?ぶーらん、やる?」
ほのかはねだるような言い方でそう言った。
「へへ。よし、じゃ、ぶーらんやろうか。せーの!」
ほのかの右手を握っていた北斗と左手を握っていたあかねが、よいしょとタイミングを合わせて、ほのかを持ち上げる。ぶーらん、ぶーらんとブランコのように揺らされたほのかは「あははは」と声を出して笑った。
 
頬を撫でる風がひんやりと冷たく、露店を灯す明かりは夜の道しるべのように柔らかく光を放っている。夏祭りの華やかな賑やかさとは違い、もう少し趣を感じることが出来る秋祭りの雰囲気があかねはとても好きだった。
 
「あ、きんぎょさんが泳いでる!」
ほのかはそう言いながら、金魚すくいの水槽脇にちょこんと座った。小金と呼ばれる一般的な金魚に混じって、黒出目金が優雅に尾をひらひらさせて泳いでいる。
「あの黒いきんぎょはなんで目がこうなってるの?」
ほのかは目をくわっと見開き、手で上瞼を下瞼を押し広げながらあかねに聞いてきた。
「なんでだろうね?周りがよく見えるようにかなぁ」
「じゃ、ほのかもずっとこうしていたらみんなのこと良く見えるね」
ほのかは更に上瞼をご下瞼を押し広げて言った。
 
ほのかは、たこ焼き屋のおじさんが鮮やかにたこ焼きをひっくり返す姿に見とれ、綿あめ屋のお兄さんが割り箸をくるくると回しただけでどんどん綿が絡んで大きくなっていく様に「手品みたい!」とはしゃいでいた。
 
「あ、りんご!ほのか、あれが欲しい」
ほのかの視線の先にはりんご飴屋さんがあった。パリパリとした飴がコーティングされ、綺麗な赤色をしたりんごが何本も並べられていた。
「ほのかは小さいからこれで良いかな?」
あかねが姫りんごの飴を指差すと、「いや。ほのかは大きいのが欲しいの」とほのかは首を振ってきかなかった。
「小さいの、可愛らしいと思うんだけどなぁ」あかねは、普通のりんごの大きさの飴はほのかには大きすぎると思い、なんとか姫りんごの飴を気に入ってくれないかと思っていた。
だが、ほのかは「小さいのはいや。大きいのもかわいいもん。ちびちびだって大きくなってもかわいいもん!」と、口を尖らせながらそう言った。
それを見ていた北斗は「そうだな。小さくても大きくても可愛いな!よし、大きいのを買ってあげよう」と笑いながら、大きなりんご飴を手に取り、ほのかに渡した。
ほのかは手にしたりんご飴に目を輝かせ、嬉しそうにギュッと抱きしめた。
 
「今日のほのかには勝てないよなぁ」
北斗はあかねの耳元でそっと呟いた。
 
家までの帰り道。
疲れて歩きたがらないほのかを背負った北斗と並んで、あかねはゆっくりと歩いた。
コンビニエンスストアの前を通った時に、キャンキャンと鳴いているチワワを連れた女性が北斗の横を通り過ぎて行った。「チワワ、可愛いな」あかねがそう思っていると、「わんちゃん、かわいかったね。ちっちゃくてかわいかったね」とほのかが何度も繰り返し、北斗の耳元で囁いていた。
北斗は「ほのかは本当にりんごが好きなんだなぁ」と背負っているほのかの背中をポンポンと優しくたたき、遠くを見つめながらボソリと言った。
 
「なんで?ほのかはチワワがかわいいって言ってるのになんでりんごの話なの?犬が好きだなぁじゃないの?」
あかねが不思議そうに話すと、北斗は「あれ?あかね知らないの?チワワの頭って丸くてりんごみたいな形をしているから『アップルヘッド』って呼ばれてるんだぞ」と得意げに言った。
北斗は更に続けて「アップルだから、りんごだろ?やっぱりほのかはりんごが好きなんだなぁと思ってさ」と言った。
「なによ。そんなのこじつけじゃん。たまに知ってたからって博識ぶっちゃってさー」
あかねはほっぺたを膨らませながら早口でそう言った。
「たまにしか知らないんだから、知ったかぶらせろよ」
北斗はふふっと微笑みながらあかねの顔を覗き込んだ。
 
ほのかはいつの間にか眠ってしまったらしく、北斗の手にはずっしりとした重みが感じられた。スースーと静かな寝息を立てたほのかの頭は北斗の肩にぴったりと乗せられていた。
 
「あ、これってアップルヘッドなんじゃないの?」
あかねがほのかの頭を見つめながら言った。
「え?丸いの?ほのかの頭ってまんまるだったっけ?おぶってるから見えないよ。ちょっと、あかね、ほのかを抱っこしてよ」
北斗は背負っていたほのかをあかねに預けようと近づいた。
「だめー。眠ったほのかは重いもん。北斗さん、最後まで任務を遂行して下さい!」
あかねは北斗に敬礼しながら、クスクス笑ってそう言った。
 
 
月明かりで照らされた道路は真っ直ぐな一本道で、どこまでも永遠に続いているように感じられた。
けれど、どこまで続いていようとも、あかねと北斗は肩をぶつけ合いながら、ずっとずっと並んで歩いて行くのだろう。
 
小さなりんごを一つ携えて。