バンビのあくび

適度にテキトーに生きたいと思っている平民のブログです。

2015.6.8 〜雨ふり雨ふりぷっくりころん

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学生時代にトレッドミル(ルームランナー)を使った実験をしたことがある。

何をしたかというと、トレッドミルの速度を変え、体にかかる負荷を測定したのだ。一定の時間歩いたら、指に針がついた専用の器具をあて、パチンと傷をつける。その血をヘマトクリット菅で吸い上げ、測定器で乳酸値を測った。そういえば、マスクをして呼気も一緒に測った覚えがある。二酸化炭素と酸素量の変化も見ながら、「疲れるとやっぱり尿酸ってたまるのね」みたいな結果を実体験で得たのだった。
指にパチンと針を刺すと、血がぷっくりと膨れて出てくる。まあるく、ぷくんと盛り上がった血にヘマトクリット菅を当てると、毛細管現象であっという間に管に吸い込まれていく。一緒に実験をしていたナオやメグの血はそんなふうに測定器にかけられた。私は血を見るのは苦手な方ではあるが、指腹にまあるく乗った赤い血はなんだか不思議なものに見え、そんなに辛くはなかった。
いよいよ私の順番になり、器具を指にあてパチンと針を刺した。指から出る、まあるく、ぷっくりした血を想像した。けれど、私の指から出てきた血は、皮膚から飛び出すとぷっくりと盛り上がらずに左右に流れていったのだ。指腹から流れ出た血は重力に引っ張られるように指脇を伝い、爪の淵に達していた。ナオとメグは「わ、流れている!採血出来るかな?」と慌てながら、私の爪の淵にヘマトクリット菅をあてていた。弱々しいながらも毛細管現象は裏切らないようで管の中に私の血は吸い込まれていった。次に採血した時も、またその次に採血した時も、私の血はぷっくりと盛り上がらずにじわじわと流れていった。
医学の知識があった訳ではないので、どうしてそうなるのか理由はよくわからない。
ただ「私の凝固因子が弱かったのかなぁ」と呟きながら、まあるい自分の血が見られなかったことをさびしく思ったのだ。
 
***
 
車のフロントガラスに雨があたる。
パラパラと音を立ててまあるい粒がついたかと思うと、あっという間に流れていく。
私はワイパーで消されていく雨粒をぼんやり眺めながら信号待ちをしていた。
ふと視界の端に、ワイパーが届いていないためにまあるく残った雨粒を見つけた。
その時、ぷっくり膨らまなかった血を思い出したのだ。
それぞれの雨粒がつつーっと流れて筋を作った。
 
まるで毛細血管のようだと思った。
 
夕方。娘と一緒に近所の家に回覧板、PTAの方の家にパトロールノートを持っていった。娘はピンク地に白い水玉模様の雨具を着て跳ねるように歩いていた。雨降りの日の細い路地に人はいなかった。私がさしていた傘にあたる雨音だけ辺りに響いていた。
道路の真ん中にコロンと青梅が一粒転がっていた。近くに梅の木はないので、誰かが落としたか、カラスの落とし物なのだろう。娘が蹴飛ばすマネをした後、そのまま跨いで歩いていった。
 
道路には青梅が一粒。
 
今もまだコロンと転がって静かに雨に打たれていることだろう。