職場の事務所前に踏まれた緑色のカナブンが落ちていた。絶命してから踏まれたのか、踏まれたから絶命したのか、しばらく考えた。
ふと、顔を上げ、周りを見渡すと私達が「現場」と呼んでいるものづくりをする場の床面(と言っても工場の地面)に葉っぱやらテープの端っこやらがいくつも落ちていた。ここのところ、とても忙しいので掃除が間に合っていないらしかった。私は片隅に立てかけられていた箒を手にし、床を掃いた。
黄色いマスキングテープ、とげとげしたカーボン繊維に紛れて、死骸となったカナブンを掃いていく。葉っぱ、紙切れ、死骸となったトンボ。ビニル袋、パックテープの丸まったもの、死骸となったセミ。トンボ、カナブン。
集中して掃いていたら額に汗が浮き出てきた。汗を拭いながら、ちり取りを取りにいく。箱型のちり取りの中に、ゴミと死骸が一緒になって入っていく。なぜここで生き絶えたのだろうと思いながらざっざっと掃いた。
「あ、そこね、風で葉っぱが入ってきてたから誰か掃いてくれないかなあって思ってたんだ」
通りかかった社長に話しかけられ、
「あ、いや、なんか、誰か掃くのか?の我慢比べかと思ってたんですけど、我慢できませんでした!!」
と返したら、
「我慢しなくていいよー。ありがとうー」
って言われた。
社長にそうは言ったけれど、本当のところは息絶えたあとであっても、踏まれるカナブンが見ていられなかったのだ。甲虫がぐしゃっとつぶされた状態はなんだか見ていられなかっただけなのだ。
きっと、それを話したところでわかってもらえないだろうなあと思ったので、ココに記しておく。
とても綺麗な緑色のカナブンだった。