息子の予防接種を受けるために小児科へ行った。
通常診療時間に行ったのでマスクをして、できるだけ周りの人と接触のないようにしながら待合室で水槽を眺めて過ごした。
水槽の中には手を広げるようにゆらゆら動いているピンク色のイソギンチャクが存在感を放っており、そのイソギンチャクを下からのぞきこむと言葉通りのカクレクマノミが三匹ほど潜んでいた。
暇になったので雑誌を読んだ。その雑誌はチーズ特集をしており、チーズフォンデュが食べられるお店がいくつも載っていた。チーズは好きだけど、フォンデュはあんまり興味ないなぁなどと考えていたら、名前を呼ばれたので中待合室へ移動した。
「事前に市から配られる冊子は読まれていますか?」
看護師さんに尋ねられたため、はいと答えた。どうやら記入してきた問診票のその設問だけ私は飛ばしていたらしい。なんでここだけマルがしてなかったんでしょうね、はははっと笑う私に看護師さんも笑みを浮かべていた。体長を崩す子が多く、中待合もいっぱいだったため、私たちはさらに中にある処置室のようなところで待つように促された。息子は小さなベッドに座り、私はぼやっと立っていた。壁の上部に貼られていたクマのプーさんの手の部分がやや剥がれており、暖房の風で揺れていた。プーさんが手を振ってるみたいだね、あれは狙ってやってるのかねなどと私たちが笑いながら話していると、診察室の方から3歳くらいの男の子とお母さんがやってきた。2人が行った先にはくるくる椅子がひとつだけ置いてあったのだが、その椅子にお母さんがどっしりと腰かけ、男の子は傍らに立っていた。それに気づいた看護師さんがもう1つ椅子を持ってきた。
しばらくすると、ブラジル系と思われる2歳くらいの女の子とお母さんがやってきた。女の子は検査をするために採血が必要だったらしく指に専用の器具を当てられ、パチンと弾かれていた。涙を流しながら泣く女の子を心配そうな顔でお母さんがなだめていた。女の子の指にはぷっくりとふくらんだ血液が出ており、看護師さんが手早くヘマトクリット管をあてていた。ふくらんでいた血液が毛細管現象で管におさまる様を私はじっと眺めていた。学生時代、実験で自分の指に専用器具で傷をつけ、ヘマトクリット管で吸い上げる動作を何度もしたことがあったからだ。その時の私の血液は横に流れてしまい、吸い上げるのがやや面倒だった。今日見た女の子の血液はぷっくりときれいに盛り上がっており、大丈夫、泣いているけれど、できるだけ痛くないように看護師さんがやってくれているからと心の中で思っていた。
息子の名が呼ばれ、診察室へ移動した。注射をするだけなのであっという間に終わった。肩を出した状態の息子は洋服に袖を通す際、下着の袖には手を通さずシャツにのみ手を通すというあるあるをしでかしていた。あれ、あれ、どうなっているんだろう?と本気でわからなくなっている息子にとりあえずシャツを一度脱いでやり直したらいいと伝えた。軌道修正すればそれでいいのだ。
小児科を出て、車に乗った。
車の中で「さっき、待ってたときに男の子とお母さんが診察室から出てきたじゃない?」と話し始めたら、息子が「ああ、お母さんのほうが椅子に座ったから驚いたよねぇ」と答えた。
私が最後まで言わずともこの子も同じことを思っていたのかと笑えてきた。
それから息子がこの感覚を持ち合わせていることがなんだか嬉しいと思えたのだ。
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