バンビのあくび

適度にテキトーに生きたいと思っている平民のブログです。

セーラー服を盗まれた日のこと

 あまり、こういう話題に触れた記事を書いたことはないのですが、記録として書いておこうと思ったので、書きました。
 
もう、かなり昔のことで、抜け落ちた記憶もあるんですけど、当時、17歳だった私が感じたことは忘れたことがありません。
 
 ***
 
梅雨が明け、暑さが厳しくなり始めた頃だった。
 
私が通っていた女子高の制服は、地味めながらもそれなりに人気のあるセーラー服で、そのセーラー服着たさに入学してくる子もいるような学校だった。冬の重い雰囲気の濃紺セーラー服は、6月に入る頃に長袖の白いセーラー服になり、暑さが増すと半袖の白いセーラー服になる。
あの日は暑かったので、私は長袖のセーラー服ではなく、半袖のセーラー服で登校した。日曜日で学校は休みであったが、部活をするために学校へ向かったのだ。
平日は、登下校時間に開けられている裏門を通って学校へ入るのだが、その裏門は防犯上の理由で登下校時間以外に開くことはないため、休日は職員室から目の届く表門を通って校内へ入る。私は表門から校内へ入ると、すぐ右手にある部室棟へ足を向けた。部室棟には運動部、文化部合わせて10以上の部活が利用していた。1階は格技場で、2階にそれぞれの部室が入っており、私が所属していたバレー部は手前から4つ目の位置に部室があった。
私はいつものようにドアを開けて、部室へ入り、仲間と話をしながら着替え、体育館へ移動した。
体育館で、たくさんの汗を流し、あと1時間程度で練習が終わるだろうと思われる時間に差し掛かったとき、陸上部の子が慌てた様子で体育館へ入ってきた。陸上部の子はすぐに顧問のところへ行き、なにやら話をしていた。練習中に他部の子が来ることは滅多にないので、私たちは何があったのか不思議に思っていた。だが、そのあと体育館に響いた顧問の声で私たちは何が起きたのか理解するとともに、寒気がするほど不安になりながら部室へ向かうこととなった。
 
「ちょっと、練習やめて、今すぐ全員、部室へ行け。部室棟から走って出ていく男がいたらしい。荷物を確認しろ!」
 
私達は慌てて走り出した。部室棟へ上がる階段は狭く、列になって走るとなかなか部室へたどり着くことが出来ず、もどかしかった。
私が部室へたどり着き、足を踏み入れて目にしたものは、床に散乱したセーラー服とキャミソールと靴下だった。部室には30人程度のセーラー服がかかっていたはずなのだが、あまりの散乱具合にみんな血相を変え、自分のセーラー服を探すことに必死になった。ひとり、また、ひとり、と、持ち主が判明していく中で、最後まで私のセーラー服は見つからなかった。茫然とした。結局、私を含め、全部で3着のセーラー服がなくなっていた。
こんなにたくさんの制服がある中で、なんで私のが盗まれるの?って思った。
ショックなのと、なんで?なんで?が頭の中を巡っていた。
 
顧問は盗難の報告を受けると、すぐに警察を呼んでくれた。
私と、あと2人の被害者は体育準備室で被害届を書いた。学校へ印鑑を持ってきているわけもないので、私たちは被害届に拇印をした。指に朱肉をつけて、押すこと自体が初めてだったし、その行動は私に現実を突きつけた。一瞬、泣きそうになった。
私たちは重い空気を抱えたまま、部室へ戻り、しばらく話すことが出来なかった。
それでも家に帰らなければいけないので、のそのそと動き出した。汗を吸った練習着のままだけれど、着替える制服がないので、上にジャージを羽織って帰宅した。
母に制服が盗まれたと伝えると、とても驚いていた。半袖のセーラー服は洗い替えにもう1着持っていたので、すぐに困ることはなかったけれど、購入しなくちゃねと母は言った。
 
その後、同じ部活仲間ののんちゃんが、「私のお姉ちゃんのおさがりで良ければいる?」と言ってくれたので、のんちゃんのお姉さんのおさがりをありがたくもらうことにした。本当に助かった。
 
結局、犯人が捕まることはなかった。犯人と思われる男の動きに無駄がみられないことから、おそらく下見をしていたのではないかと警察は言っていた。もしかしたら、部室も覗かれていて……なんて想像をし、背筋が寒くなった。
それからしばらくは、インターネットで母校のセーラー服が売買されているのを見るたび「私のものかも知れない」と思い、気分が悪くなった。
 
年々、学生時代の記憶は薄れていくけれど、あのとき、散乱したセーラー服の中で自分のものがないとわかったときの絶望感は忘れることはない。
 
すれ違う男の人がみんな、不審者に見えた。
 
***
 
制服盗難から2年後ぐらいにまったく別の話だけど、こんなこともあった。

電話に出たくないワケ - バンビのあくび

このときも、周りにいる人が全員、不審者に見えて怖かった。

 

今はもう、そんなことはないけれど、電話に出るのはあまり得意ではないし、制服のゆくえがわからない、気持ちの悪さをどこかに抱えたままだ。