バンビのあくび

適度にテキトーに生きたいと思っている平民のブログです。

公園にいたおばあさんのはなし

私が通っていた小学校の横には住宅地にしては大きな公園があった。

グラウンドと藤棚とツツジ園と忠霊塔が建っているような公園で、春はグラウンドを囲むように桜の花が咲き、桜が散るとツツジやフジの花が見ごろを迎えた。お年寄りはグラウンドでゲートボールを楽しみ、花が咲いている付近を散歩したり談笑したりしていた。公園の向こう側にはお寺があり、秋には写生会もしたし、見世物小屋がくるようなお祭りも行われていた。時々、私の小学校は公園のグラウンドを借りてマラソン大会やスポーツ大会を行ったりもした。公園のグラウンドではあったが、第二の小学校のグラウンドのようでもあったのだ。

ある日、学校へ行くとみんなが腰が90度ぐらい曲がっているおばあさんの話をしていた。なんでも隣の公園には毎日のように腰が90度曲がっているおばあさんが散歩をしており、すぐにこどもを叱りつけるらしかった。

「90度ばあさん」みんなはそんなあだ名をつけた。

休み時間に廊下の窓から公園を眺めていると、時々、90度ばあさんが歩いているのを見かけた。おばあさんはゴミを拾ったり、花を眺めたりしていたが、あまり同世代の方々との交流はないように見えた。

当時、私は友達10人ぐらいで集まって遊ぶことにハマっていた。なぜこんなに大人数なのかと言うと、みんながそれぞれ100円を持ちより、お菓子屋さんで1.5リットル入りのジュースとお菓子を買って公園で食べることが楽しかったからだ。100円のお小遣いで食べられるお菓子の種類は少なかったけれど、みんなで出し合えば色んな物を食べられたし、なによりピクニック気分になれたのだった。

その日、いつものようにお菓子屋さんへ寄ってから学校横にある公園へ向かった。公園に自転車を止め、今日はどこでお菓子を食べようかという話になった。空は青く、高く、どこで食べても気持ちが良さそうだった。

「あそこで食べようよ」

ふみちゃんが指差した先にあったのは忠霊塔だった。忠霊塔は公園の片隅にあり、10段ほどの階段を登った上に細長い石碑が備えてあった。小学生の私達は忠霊塔の意味はあまり理解しておらず、ただ石碑のある見晴らしの良い場所ととらえ、常日頃から鬼ごっこなどをする時に登ったりして遊んでいた。

「あそこなら見晴らしも良いし、楽しいと思うの」

ふみちゃんの言葉に反対する者はいなかった。両手に下げたビニル袋をかさかさ鳴らしながら足取り軽く階段を登った。登り終えた後、辺りを見渡すと、公園を見張らせる高さに気持ちがすぅっとした。みんなでしゃがみこみ、手に持っていたビニル袋の中から次々にお菓子を取り出した。ペットボトルのジュースは使い捨てのプラスチックコップへ注ぎ、スナック菓子はみんなが取りやすいように大きく開封した。太陽がまだ高く昇っており、ちょうどおやつの時間ぐらいだったと思う。野外で発する「いただきます」の声は穏やかな空気を運んできた。学校のこと、好きな人のこと、家のこと、小学校を終えるとA中学とB中学に半々に分かれてしまうこと、いろんなことを話した。私たちはお互いが共有する時間をただ、楽しんでいた。

そのとき「そんなところで、遊んでちゃだめだよ!」という声がした。声の主は90度ばあさんだった。忠霊塔の下から私たちを見上げ「そこはね、戦争で亡くなった人をまつる大事な場所なの。遊んだらだめ!」と強い口調で言った。先ほどまでの穏やかな空気が一瞬のうちに凍りつき、私たちは「す、すみません」と言いながら広げたお菓子を片付け、忠霊塔の階段を駆け下りた。

そんな私たちを見て、おばあさんは無言のまま、私たちの前から離れていった。

「なに、あれ?」「あんなに強く言わなくてもいいじゃない」

しばらく経つと皆が口々に文句を言い出した。

やっぱり噂のとおりね、すぐしかりつけるのね、って。

私はなんだかもやもやしたものを抱えたまま自転車にまたがり、家へ向かって帰って行った。

 

 私はまた学校の休み時間に公園を眺めていた。

すると時々、90度ばあさんが歩いているのが見えた。おばあさんはゴミを拾ったり、花を眺めたりしていたが、相変わらず同世代の方々との交流はないように見えた。私はおばあさんに叱られたばかりだったせいか、前よりおばあさんの姿を目で追ってしまった。そこで、おばあさんが90度に曲がった腰をさらに曲げ、忠霊塔に向かって頭を下げている光景を目にしたのだ。

深くはわからない。

よくわからないけれど、遠いところでああ、そうかと思った自分がいた。

 

おばあさんにとってここは本当に大事なところなのだ感じたのだ。

 

 ***

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池辺葵「どぶがわ」を読んだ。

孤独でも幸せであったであろう老婆に心をすべて持っていかれた。

読み終えても余韻が残り、しばらくふわふわした世界に浸っていた。

私がふわふわした状態から解放された後に急に思い出したのは公園にいたおばあさんのことだった。

ただの見知らぬおばあさんのふとしたしぐさから、よくわからぬ何かを感じ取った時が私にもあったなって思いだした。

見知らぬ者同士でも同じ場で呼吸をしていたら影響しあうことはあるんだと思う。

  

「どぶがわ」良い本でした。

プレゼントして下さった方、本当にありがとうございました。

大事にしますね☆

   

あらかじめ決められた恋人たちへ 「Back」 PV

 

どぶがわ (A.L.C.DX)

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