あれだけ怖かった、アパートの階段を上がる足音が聞こえてきても何も思わなくなっていた。多くの人が生活をし、行き来している音は怖いどころか少しの安らぎを与えてくれる。
人が怖かったときもあるし、私の口から発することばが、いつも誰かを傷つけてしまうと恐れたこともある。
大事にしていたはずなのに、いつの間にか失くなってしまったものの残像が私を惑わせ、心が保てなくなったこともある。
それでも私は明日を追い続け、今、ここにいる。
ことばは無力だけれど、柔らかく心地よいものであればいいとおもう。
先の尖ったことばはいらない。
あとは聞く耳を持って、ことばを拾い上げ集めたい。
子どもの頃に遊びに行った海岸で、砂を指でほじくりながら探した貝殻のように。
少し欠けていてもつやつやで、服の裾でこすったら、さらに光を帯びた貝殻のように。
静かに耳にあててみたら、ささやきが聞こえた貝殻のように。