7月に入ったとたん、急に暑さが増してきた。
公園の草取りをして、首をつたる汗を感じている時に夏のにおいがした。
夏の日の思い出といえば、市民プールを外すことはできない。
小学生だった頃、夏がやってくると私は友達と自転車で市民プールへ遊びに行っていた。行くのはたいてい土曜日で、学校が終わってから家でお昼ご飯をささっと食べ、そのあと、汗でべたべたになった服を脱いで水着に着替えた。そうすれば、プールについた時に更衣室で汗でべたべたになった体に無理やり水着を着る手間が省けるからだ。ただ、パンツを持っていくのを忘れると大変なことになるので、パンツを持ったかチェックだけは怠らなかった。
待ち合わせ場所につくと、みんなで1列になって自転車をこぎだす。日差しが強く、ペダルをこぐたびに汗がふき出てくる。市民プールは郊外にあるため、景色からどんどん家がなくなっていく。セミの声がそこらじゅうでしていて、信号待ちで足を止めるたびに、流れる汗をタオルで拭った。市民プールのスライダーが見えてくると、皆の足はやや軽くなる。遠くから香ってくる塩素のにおいが鼻をついた。
自転車を止め、入場料を払う。金額は定かではないが、こどもは100円程度だったと記憶している。市民プールへ行く際は、母にいつも500円もらって、入場料と飲食代にあてていたからだ。更衣室で服を脱ぎ、小走りでプールへ向かう。最初にあびるシャワーが冷たくて、ぶるっと震えるけれど、心は流れるプールへ向いているのでまったく気にならなかった。
流れるプールを1周する間に必ず友達に会った。皆でわいわいしながら、水の中で漂っているのは穏やかで楽しかった。波のプールへ行ったり、スライダーを滑ったりもした。スライダーは楽しいのだが、何度も調子に乗って滑ると、水着のお尻部分の生地が薄くなって破れるので、決して調子に乗ってはいけない。お調子者の男子がお尻を見せながらおどけているのを見て、「男子ってなんだかこどもよねぇ」って思うのが常であった。
1時間に1回、プールの点検があり、その時間はプールに入れないので、私たちは食べ物を求めて売店へ行った。フライドポテトやアメリカンドッグを食べることが多かったが、体が冷えた時はカップラーメン(カップスター)を食べたりした。
4時ぐらいになるとそろそろ帰ろうかと誰かが言い出して、みんな残しておいた100円を握りしめ、カールを買って帰った。
今考えると、なぜ最後にカールを買っていたのか?と疑問に思うけれど、カールをおみやげとして持ち帰り、家で食べるまでが私の市民プールの思い出なのである。疲れた体を横たえて、昼寝をしていると「ごはんできたよー」という母の声がする。
母の声は優しかった。
羽尻利門さんの『夏がきた』を読んだ。
夏の暑さもにおいも、扇風機の風も感じられる絵本だった。
玉ねぎがぶら下がった軒下、玄関にある朝顔、てるてる坊主、風鈴、すだれ……少し前の夏に見かけられた風景が広がっていて、「これぞ、夏!!」と思った。
人々の動きがどこか優しく感じるのはなぜだろう。
絵と色づかいが素晴らしくて、私の中の「夏が来るたびに読みたくなる絵本」に加わった。
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