梅雨があけたとたんに蝉の鳴き声が聞こえる。
蝉はどこで梅雨明けを知ったのだろうか。
気温がぐんぐん上昇し、空気が波打っていると思えるぐらい停滞している。呼吸が苦しく、首に伝う汗が気持ち悪い。
長くなった髪の毛をそのまま下ろしていたら、首の後ろが暑くてどうにも耐えられなく、慌ててその辺にあったゴムで髪の毛を結わえた。
車で国道を走っている時、ぴかぴかした田んぼが目に飛び込んできた。すると、急に懐かしいような切ない気持ちでいっぱいになり、鼻がつーんとした。
なぜだろう、なぜだろうと考えていたのだけれど、きっとあの日の夏を思い出してしまったからなのだと思う。
何年も何十年経っても夏が来るたびにふと思い出す。だが、時が経ちすぎて思い出はフィルター越しにしか見えなくなっているように思う。けれど、あの時に感じた思いだけは、夏のにおいと青々とした草と広い空に紐づいて私を少女にしてしまうから困るのだ。
いつもの何でもない日常の中で、たった数分だけ少女に戻る時間があってもいいのかも知れないけれど。