雹が降ったり、大雨が降ったりと今年の梅雨はなかなかの存在感を放っている。
けれど私が住んでいるところの天気はどうかと言えば、「晴れ時々曇り、そのまた時々雨」ぐらいの感じなのであまり梅雨っぽさを感じていない。
夏が近づき、気温の上昇を感じながら仕事の合間に外で深呼吸をしていたら野球部の声が聞こえてきた。
会社の近くにはとある企業のグラウンドがある。そこで野球部が練習しているのだ。
グラブでボールをキャッチするキレの良い音を聞いたら、先日まで放送されていた「ルーズヴェルト・ゲーム」を思い出し「熱いな。熱量あるな」とか勝手に思いながらギュッと手に力を入れる。よし!みたいなポーズをとったところをいつもうろついている黒猫にギロッと凝視され、「あ、いや、べつに、これは気合い入れたのでも何でもないんだから・・!」と言い訳をしている様はさぞかし滑稽であったことであろう。
誰もいなくて良かった。
仮に見られていたとしても「そうですね。暑くなってくると頭もおかしくなりますよね」と受け流されるのだろうけれど。(「あの人、いつも頭おかしいですもんね!」とはならないと思いたい)
野球で思い出したのだが私が中学生の時、野球部とサッカー部でサッカー対決をしよう!みたいなことになった時があった。
「そんなのサッカー部が勝つに決まってるじゃん」と思われるだろうが、その時のサッカー部は弱小であったし、野球部は運動が得意な子が多かったので「これは実際やってみないと勝敗はわからないね」と誰もが口を揃えた。
決戦の日は雨だった。
確か今と同じぐらいの時期だったように思う。
雨だし中止かな?と思っていたら「これぐらいの雨ならいけるな」と野球部もサッカー部もぞろぞろと外へ飛び出した。中止にならないのなら私も見物しようと思い、校舎の窓からグラウンドを眺めた。
試合開始。
いざ始まってみると野球部の動きの良さが目立っていた。「どちらが勝つかはわからない」とはいえ、数年、練習を積んだサッカー部が押される事態はちょぴり見たくない光景だった。
野球部の部長が放ったシュートがゴールネットを揺らして大喜びの野球部。
口をつぐんで歯を食いしばるサッカー部。
雨がだんだん激しくなってくるとサッカー部はその雨に飲み込まれそうなぐらい存在を失っていった。
結局、試合に勝ったのは野球部だった。
お遊びで始めた試合であっても負けるのは辛いだろうなと思いながら、お互いにお辞儀をする彼らを眺めていた。
すると、礼を終えた彼らは狂ったように雨の中を走り回り始めた。はしゃいでいた。泥だらけになりながら。
当時、女の子同士で「あのさ、男子ってどうして雨が降ると雨の中で運動し始めるんだろうね。ばっかじゃない。カッコつけてるのかな」とかそんな会話をしたことがあったけど、いやいやバカでいいんだってこの時は思った。
雨は真剣勝負で熱くなった体を冷やすのにちょうど良かったのだ。
その後、ずぶ濡れの彼らは「うへぇ~」と言いながら校舎へ入ってきた。
泥まみれになった野球部の部長、サッカー部の部長がこちらを見た。そして笑った。
私はバレー部の部長だったので、なんとなく部長というくくりの同士みたいなところがあったのでこちらを見たんだと思う。
「サッカー部、負けちゃったじゃん。。でも野球部も手を抜かなかったんだね」
「そうそう、コイツら手をぬかねーの。こっちにだってちょっとはメンツとかあるのにさぁ」
「だって手を抜いたら勝負にならねぇじゃん」
「そりゃ、そうだけどなー」
「よし、次は野球対決しようぜ!」
「わかった。今度は負けないからな!」
こういう会話はあの頃だからできたのかも知れない。
後に野球対決が行われることはなかった。タイミングを逃した。
もう何年も経つけど、ここらで一つ野球対決すれば良いのにと思う。
おっさんになった君達は以前より差が縮まっているかも知れないしね。
そんなことをグラウンドから聞こえる掛け声で思い出した。
今日の空はどこまでも高かった。
・・と見上げている私をまたしてもギロリと見つめる黒猫ちゃん。
は、はい、仕事しまーすっ!