もしも「好きな絵本作家を5人挙あげて下さい」と質問されることがあるとしたら、私はそのうちの1人にこの名をあげるであろう。
『佐々木マキ』と。
こちらの表紙でもあるオオカミ、ぶたのたねシリーズ、ねむいねむいねずみシリーズなどの絵本や、絵本に馴染みのない方でも村上春樹の本の装画で佐々木マキに触れている方は多いのではないかと思います。
「佐々木マキ」という名から女性だと思い込んでいる方もいらっしゃるようですが、佐々木マキさんは男性です。
佐々木マキさんは雑誌「ガロ」でマンガ家としてデビューし、主に風刺マンガを描かれていたようで、本書にもいくつかマンガが載っているのですが、私はシュールで難解な印象を受けました。けれども、佐々木マキさんはこのマンガを音楽を聴くようにするする描いており、またそのように気負わず読んでほしいような空気が流れていました。深く掘り下げるのではなく、イメージで読むといったところでしょうか。その後の絵本作家としての作品にもそのあたりの流れがあるような気がします。
本書には絵本『やっぱりおおかみ』に出てくるおおかみや『ムッシュ・ムニエル』シリーズのムッシュ・ムニエルが絵本よりも前にマンガのキャラクターとして登場している話が書いてありました。確かにどちらも魅力的なキャラクターなので、そう言われても納得できます。
この本は佐々木マキさんの様々な作品のことについて書かれているのですが、そのなかでも私の大好きな『やっぱりおおかみ』について少し触れていきたいと思います。
私が初めて、佐々木マキさんの本に触れたのは『やっぱりおおかみ』でした。幼稚園に通っていた頃であることは間違いないので、4.5歳だと思われます。私が、はじめて触れた『やっぱりおおかみ』が佐々木マキさんの絵本デビュー作です。
以前に『やっぱりおおかみ』のことを書いた記事です。
こちらを読んで頂いてもわかるかも知れませんが、それまで私が目にしていた絵本は非常にわかりやすい結末を終えるものばかりでした。4歳以前に読んでいた絵本なんて、めでたしめでたしが多いのですから当然と言えば当然かも知れません。はじめて「やっぱりおおかみ」を読んだとき、はっきり言ってよくわかりませんでした。掴みどころがないのです。けれど、そこには惹き付けられるなにかがありました。
『やっぱりおおかみ』にでてくるおおかみは『け』しかしゃべらないのですが、『やっぱりおおかみ』が発行された当初の折り込み付録にはその理由が次のように述べられています。
「け」というのは、侮蔑・拒否・あこがれ・さびしさ・負けおしみ・・・さまざまなオモイをこめたきわめて意味深い言葉であると同時に、単なる「け」という音にすぎない、そのようなものです。
意味深いけれども、音にすぎないというのは、どちらであっても構わないということでもあるように思います。
『やっぱりおおかみ』は発売当初、「こどもらしくない」という反発の声も多かったらしいのですが、そんなことは杞憂であったと私は思っています。もしも当時、「こどもらしくない」という理由でこの本を取り上げられることがあったのなら「こどもらしい」ってなんなの?と、こどもであった私は発してしまったかも知れません。
万人受けするものが良書とは限らないというのはよくある話であり、『ねずみくんのチョッキ』の作者、なかえよしをさんのこちらの記事を読むとうむむっと唸ってしまいます。
http://www.nezumikun.com/kujira/eehon/taisetu.html
なかえよしをさんの仰っている「たいせつなものはめにみえない」から考えてみますと、佐々木マキさんの素晴らしさはそのあたりで語れるような気がします。
(余談ですが、先ほど貼った「彷徨い続けること」という記事の中で、村上春樹さんの『かえるくん、東京を救う』のことも書いているのですが『目に見えるものが本当のものとは限らない』という記述があり、なかえよしをさん『たいせつなものはめにみえない』と合わせて考えると面白く感じました)
村上春樹さんが『佐々木マキは僕にとっては永遠の天才少年である』といったように、佐々木マキさんの魅力は延々追って行っても追いつけない少年の心なのではないかと感じています。
『佐々木マキ:アナーキーなナンセンス詩人』は佐々木マキという人を知るだけではなく、マンガや絵本の位置づけを考えるうえでも興味深い本でした。
面白かったです。
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私の部屋の本棚にある佐々木マキさんの絵本たち。
ムッシュ・ムニエルやぶたのたねは実家にあるため、手元にあるのはこれだけ。
「ぼくがとぶ」は福音館書店発行のもの(画像のもの)は絶版で、絵本館から表紙デザインをリニューアルして復刊しています。
「へろへろおじさん」は昨年のこどものとも、「てぶくろくん」は先月のこどものともです。佐々木マキと書かれているだけで思わず手にとってしまう魔力!
これからの時期にぜひおすすめしたいのは「あんたがサンタ?」です。
「あんたがサンタ?」は困ったサンタの実例集なのです。面白い。こどもも大笑い。
イメージとしてはフリップ芸人が「こんなサンタはいやだ!」と言いながら1つずつ挙げていったらこの本のようになるかも知れないです。それでもどこかに哀愁を感じてしまうのは私だけではないはずです。
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「へろへろおじさん」のことを書いています。