車の修理が終わったとの連絡を受けて車を取りに行った。2週間ほど代車に乗っていたのだが、私の体はすでに代車に慣れ始めていたようで自分の車だというのに座った直後に違和感を感じた。ハンドルの太さ、視界、ウインカーの音などの違いに戸惑ったのだ。数十分乗っていたらだいぶ思い出してきて乗り心地が良くなった。体はその場に適応していく。
春の空気は懐かしい景色を時々思い出させる。
ふと思い出したのは学生時代、都内へ電車で通学していた時のことだ。乗り換え駅のホームに小さな本屋があり、電車を待っている間に寄ることが度々あった。幼少期から好んで本を読んでいたけれど、海外文学に触れることは少なかった私がなぜかその頃は海外文学に惹かれていた。
アガサ・クリスティ、サガン、ツルゲーネフなどを本屋で選び、ホームへ入ってきた電車に乗って読んだ。本の内容はもうあんまり覚えていないのにその時の車窓と空気だけは思い出すことができる。もう何年も前のことなのに。
先日、テレビで三谷幸喜脚本の「黒井戸殺し」が放送された。「黒井戸殺し」はアガサ・クリスティの「アクロイド殺し」が原作と書かれていて気がついた。私の記憶は「アクロイド殺人事件」というタイトルだったので私が読んだアガサ・クリスティはハヤカワ文庫ではなく新潮文庫だったということを。
調べて見たら時計の表紙に覚えがあった。
長く生きていると記憶は都合よく書き換えられる。それさえも理解したうえで今が一番良い環境であるならばそれでいい。
何かの拍子に拾ってしまう記憶の切れ端に振り回されなければそれでいい。

- 作者: アガサクリスティー,Agatha Christie,羽田詩津子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2003/12/01
- メディア: 文庫
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