花を飾りたい。
とても暗い海の底から浮上し、明かりが見えたように感じた日にそう思った。
だが、花は何日か経つと枯れていく。定期的に買うとすると出費もバカにならない。
頭の中で花のことを考えながら何日か過ごしていた時にスーパーの片隅で見切り品の花を見つけた。これだと思った。束になった花はややしおれたものを含んでいることもあったが、私が部屋に飾るには申し分のないものだった。見切り品なので当然選べる花は限られている。その数少ない中から私とともに過ごしてくれそうな花を選んだ。
花に詳しい訳ではないけれど、単純に咲いている花は美しいと思った。「花が美しい」と思う感情が機能していたことに安心した。それはかつて夜空に浮かんでいる星が美しいと思えるかどうか心配したあの日に似ていた。
花は蕾であったものはしだいに膨れ、膨らみに気づいた翌日には開いて花を咲かせた。目の前にある「今日」を消化することに懸命になり、曜日感覚が鈍り始めた私に時間が動いていることを教えてくれた。また良い香りを運んで私をリラックスさせてくれた。
今日、スーパーの片隅で見切られていたのはオレンジとピンクがひとくくりにされていたバラだった。きれいだと思い、手を伸ばしたが花瓶にオレンジとピンクが一緒にあるところを想像してしばらく考えた。そして私は2束購入することに決めた。
家で2束の花をばらしてピンクとオレンジに分けた。
うん。この方がいい。
オレンジとピンク。
ひとつを玄関に、もうひとつをリビングに飾った。
自分で選んだ花を家の中心に置けることは喜びでもある。
そこに花を置いても誰も文句を言わない。私の行動を咎められることはない。私が私でいることを許される場であることを意味している。
私は今日も花が美しいと感じた。
蛙の声が賑やかだと感じた。
用水路を流れる水の音が心地よいと感じた。
夜のひんやりした風は私の横をすり抜けていった。