皆に親しまれていた子どもの本専門店「メルヘンハウス」が閉店したのは2018年3月のことだった。私も閉店前の2018年3月にお店に寄らせて頂いた。店内はたくさんの人で溢れていた。皆がメルヘンハウス閉店を惜しみ、感謝の気持ちを表している光景が見受けられた。
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メルヘンハウス閉店後、2代目店主である三輪丈太郎さんは動き出した。
「子どもたちに良い本を!」
丈太郎さんは実店舗再開へ向け、講演会やイベント、本のセレクトなど絵本に関する仕事を精力的に行われている。
2019年9月。名古屋の千種、今池界隈で「本を読む時間」というイベントが行われた。いくつもの参加店が発表になる中、気になる情報が飛び込んできた。
メルヘンハウスが2日間のみ復活するというのだ。
復活と言っても店舗はない。ではどういった形になるのかと言えば、「本を読む時間」参加店の場所を少しお借りして、丈太郎さんが絵本を販売するとのことだった。
しかも内容を読んで驚いた。
「1冊の絵本を丁寧に手渡していく」
今回は、「今、私が手渡したい1冊の絵本」と題して、迷いに迷ってセレクトした1冊の絵本を、100冊用意して皆さんに手渡したいと思っています。
丈太郎さん自身がプレゼンをし、選んだ1冊だけの本を2日間で100冊販売するというのだ。そして、選んだ1冊はシークレット。足を運んだ人だけが何の本か知ることができる。
私はカレンダーを確認し、行くことを決めた。
丈太郎さんが今、手渡したい絵本とはなにか。
また、どんな語りをするのか気になったのだ。
当日。私は名古屋のシマウマ書房へ向かった。シマウマ書房の1階に丈太郎さんの姿があった。ちょうど客足が途切れたところだったようで、壁沿いに並べられたたくさんの絵本を娘と手に取り、話をしていた。
「ここにたくさんの絵本がありますが、これらは販売していません。今日、私が販売するのはこれ1冊のみです」
丈太郎さんが話し出した。
丈太郎さんは「このよで いちばん はやいのは」を手に持っていた。
そして、私と娘だけに本の内容を話始めた。
以下、ネタバレ含みます。
「はやい」ってなんだろう。
ウサギとカメのはやさをくらべるページから話は進んでいく。いろんな動物の足の速さを比べ、そのあとに新幹線やジェット機が描かれている。モノとしての速さについて何ページか語ったのち今度は音、自転、公転、そして光と続いていた。
だが、そのひかりより もっと はやいものがある。
ここで、ふと、なんだろう?と皆さん考えるのではないだろうか。
私も例にもれず、なんだろうと首を傾げた。
丈太郎さんはページをめくる。
それは にんげんが あたまのなかに なにかを おもいうかべたり かんがえたりする ちから、 そうぞうりょくだ。
想像力は時も場所も越え、一瞬のうちにそこにたどり着く。
私達の頭の中に広がった想像力の海は果てしなく、どこまでも広がっている。
話を聞き終えた娘はこの絵本を購入する!と言った。
丈太郎さんは袋に本を入れてくれ、「すてきな三にんぐみ」のバッジをおまけとして下さった。
家で袋開けると、こんな紙が入ってきた。
内容は、本来、絵本を手渡す際はアドバイス程度にして、自分の思考や解釈を語らないようにしていること。しかし、今回はご自身の「ご法度」としていた想いをこの絵本に乗せて届けたかったことなどが書かれていた。
「子どもたちに良い本を!」
私もずっとずっとそう思っている。
翌日、Twitterを眺めていたらこんなツイートが流れてきた。
お礼とお詫び
— メルヘンハウス (@meruhenhouse) 2019年9月15日
出張メルヘンハウスですが、たった今100冊完売してしまいました。
これから来て頂く予定の方、大変申し訳ありませんが、本のご説明のみとなります。
何卒よろしくお願いします。
メルヘンハウス 二代目 三輪丈太郎 pic.twitter.com/zdL7MIsF4P
無謀とも思えた100冊の絵本を手渡すイベントは2日目のお昼過ぎには完売したのだった。
丈太郎さんの思い、皆さんに届いたのではないでしょうか。
素敵なイベントに触れられた喜びと絵本を抱えて
私はこれからを過ごしていくことにします。