ぽっかりと時間が出来たので、そこまで遠くなく、まだ行ったことがない場所へ行くことにした。
イオ・ミン・ペイが設計した建物を一度観てみたいと思っていたのだ。
こんな場所に美術館があるのかと思うくらい山の中へ入っていく。開けた先に駐車場があったので、車を止め、足を踏み入れた。
チケットを購入し、さて、美術館はどこだろうと案内を広げたら、500メートル先にあると書かれていた。しかも登り坂。まあ、気持ちのよい季節だから……と歩きを選択。
しばらく歩くと近未来的なトンネルが現れた。
内側に銀色の板が貼ってあるトンネルは、ゆるくカーブしており、出口が見えない。ここを通ることで日常から非日常へ。
桃源郷への道。
トンネルを歩くことがあまりないので、「あ、あ」「わ、わ」と声を出し、反響する自分の声を聴く。外から見守ってくれる私がいるようでなんだか笑えてきた。私の一番の理解者は私自身で、私の一番の話し相手も私自身。裏切ることがあっても許して、許して、許して、過ごしていかないと長い年月一緒にいることの出来ない面倒でありながら、最高の相手が私であって良かったと思う。
トンネルを抜けると、今度は橋が見えてきた。アーチが美しい。梁のあいだから覗く青い空が絵画のようだった。
空気を思いっきり吸って、体の内側に空気が入り込み、膨らんでいく感触を楽しむ。いきものって感じがするから、時々深呼吸をする。落ち着くためというより、生きていることを確認するための深呼吸。
樹々が色づいて季節の移ろいを感じる。追いかけてくる冬から逃れるように慌てて色づいているようにも見えた。私もいつも逃げている。悲しみや憤りに追いつかれないように、振り向かずに逃げている。
館内は厳かで立派な美術館だった。和服の方と何人かすれ違った。少し大人の人が来るような美術館なのかなと思いながら歩いていたら、若い男5人組が前から歩いて来たので微笑んでしまった。私は若い男の子がわちゃわちゃしながら過ごしているのを見るのが好きなのだ。
10年くらい前に代々木公園を歩いていたら、男の子の集団が全力でバドミントンをしていた。いいな、楽しそうだな、私も混ざりたいななどと思っていたら、私と歩いていた人が「男だけでかわいそう」と言った。私には何がかわいそうなのかわからなかったが、とてもさみしいことばだと思った。
MIHO MUSEUMで感激したのが、モフモフした苔があったことだ。あまりにも感動してバシャバシャと写真を撮っていたら、通りすぎる人に怪訝な目で見られてしまった。足元にも生きているモノがいますよー、雌株の胞子のうが美しいですよー、って話しかけて、興味を持ってくれる人とまた来たいと思った。
帰りに寄った農産物直売所でむかごと銀杏を購入した。
むかごはずっと食べたかったのだが、なかなか出会えずにいた。直売所で1袋だけあったむかごに「出会えた!買うとき!」と心の中で叫びながらカゴに入れた。
むかごを洗い、銀杏は紙袋に入れてレンジでチン。殻にヒビが入った銀杏をむく。
むかごと銀杏のごはん。
むかごがほくほくし、銀杏の苦味と相まってとても美味しかった。娘から塩梅が良いとお褒めの言葉を頂いた。
高い食材ではなく、季節の食材を使いたいと常々思っている。
私が欲しているものは、きらびやかな何かよりも心が落ち着けるものなのだろう。