夕食を食べた後、干しっぱなしだったタオルを取りにベランダへ出た。突っ掛けサンダルを履き、タオルを固定していた洗濯ばさみを外すと、私は両手でタオルをするっと引っ張った。
その先に星がいくつも輝いている夜空が見えた。
「今日は星が綺麗だよ」
娘に話しかけた。
「じゃあ、散歩に行こうよ」
娘が提案した夜の散歩。楽しそうなので一緒に行くことにした。
ふたりで歩道を歩いた。夜道は足音も話す声も大きく聞こえ、私達だけの部屋がそのまま移動しているような気がした。
信号を渡り、真っ暗闇の中でひっそりしている公園の前を歩いた。
「ブランコ、乗ってもいい?」
「少しだけなら」
私が公園に来たのは半月ほど前だったが、その時と比べると草が大きく育っていた。ブランコにたどり着くまでに草の間を歩いたが、足に当たる草が痒くて仕方なかった。
娘はブランコに腰掛けると、勢いよくこぎ始めた。
きい、きい。
ブランコの繋ぎ目が擦れる音があたりに響いた。娘はもっともっとこいだ。
かさっ、かさっ。
伸びた草が娘の足に当たって音をたてていた。
きい、かさっ、きい、かさっ。
静けさの中で聞こえるのはそれらの音と虫の声だけだった。
暗闇の中で大きくブランコをこいでいる娘のシルエットが綺麗だった。
ずっと眺めていたらどこかに翔んでいけるのではないかと思えたくらい綺麗だった。
ブランコを終え、またふたりで歩いた。
昼間の暑さは幾分和らいだが、湿度が高いためかじんわりと汗が出てきた。
どこかのスーパーから漏れ聞こえる店内放送が私を現実に引き戻した。