会社に出入りしているお弁当屋さんはいつもおじさんが配達してくれているのだが、ここ2週間ぐらいおばさんが「こんにちはー。おおきに」と言いながらお弁当の配達をしている。
家族経営だということは以前から知っていたので、「おじさん、どうかしたんですか?」とおばさんに尋ねてみた。
「あのね、耳があまりにも遠くてね、遠くまで配達するのは危ないから近いところだけにしてもらってるんですよ」
おばさんは柔らかい表情で続けてこう言った。
「うちって、女所帯なもんだから『お父さんはもう配達しなくていい!』って言っても聞かないんですよ。だから、いずれまたこちらにも来ると思いますよ」
耳が遠くなったおじさんは、注文電話を取っては「なんやら良く分からんかった」と言い、おばさん方を困らせているようだ。けれど、笑いながら話すおばさんを見てそれもまた優しい家族の在り方なのかなぁとそんなことを思った。
「ああ、体調が優れないとかでなくて安心しました」
私がそう言うと、おばさんはこんなことを話してくれた。
「体は丈夫なんでよろしいんですけど、22歳で結婚して今は72歳になったお父さんが耳が遠いとね、私が『好き』と言っても聞こえないんですよ」
うふふと微笑みながら話すおばさんに私は少々ときめいてしまった。
きっと「可愛らしい」と言う言葉はこんな時に使うのだろう。
表面だけの薄っぺらな可愛さではなく、内面からぽわぽわ出て来る可愛らしさ。
私も身につけられるようにしたいな。
だって、どうせなら年を重ねても「可愛らしい」って言われたいもーん(願望)
淡いものと
キラキラしたものと
薄汚れたものを
ぐちゃぐちゃ混ぜたような
そんな気分の日でした。