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バンビのあくび

適度にテキトーに生きたいと思っている平民のブログです。

寺地はるなさんの『月のぶどう』を読みました

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寺地はるなさんの『月のぶどう』を読んだ。

 

実家である天瀬ワイナリーを営み発展させてきた母が、突然倒れ、かえらぬ人となった。
優秀で美しい母を目指して生きてきた双子の姉・光実(みつみ)と、二十六歳になっても逃げることばかり考えている弟・歩(あゆむ)は、自分たちを支えてくれていた母を失い、家業を継ぐ決意をする。

 

読み終えた後、温かい気持ちとともに私ももう少し頑張ろうかなって素直に思えた。

相手が近しい間柄であればあるほど、相手のことを知ったような気になってしまうけれど実は案外見えていない。わかってはいるけれど、この本を読んでいるとそれが痛いほど伝わってきてちょっぴり切ない。

周りと比較してしまうこと、思うように事が進まないこと、なんだかわからないけど気分が晴れないこと、毎日色々ある。本当に色々ある。でも、なんとなくでも良いから進んで行こうかなと背中を押してもらえるような本だった。

ワイン醸造に関する記述が多く、「あれ?なんだかワインについて詳しくなっちゃったよ!」って気分にもさせてもらえた。ワインが出来上がるまでの工程を興味深く思いながらも、こんなにワインのことを書いているのに、文章が飽きないってなんだろうなと考えた。おそらく登場人物たちがそれぞれ個性がありながらも、近くにいそうな人だから親近感がわいて楽しく読めたのだと思う。

 

以下、ややネタバレ含みます。

 

話の中で思うところがあり、私のこととか思い出話も含んで書きたいと思う。

私が女子高生だった時に、同学年に3組の双子がいた。女子校だったので女の子同士の双子になる。そのうち2組はものすごく仲が良く、1組はあまり仲が良くなかった。仲が良くなかった双子は1人がおっとりしていて、1人がいつも怒っていた。私にはわからない心の葛藤があったのかも知れない。

きょうだいでも複数人の子がいると、どちらかがしっかり者でどちらかがぽやっとした子という構図はよくあることだと思う。それが双子であるなら、さらに他者から比較されやすいだろうと容易に想像できる。『月のぶどう』の中で、姉である光実はいわゆるしっかり者で、また、周囲からの期待にも応えようとする子でもあるが、歩はいつまで能天気でいられるのかと問いたくなるくらいのんびりしている。では何もかも歩が劣っているのかといえばそういうことでもない。頑張りすぎて周りが見えなくなる光実とは違い、歩は周りをよく見ているのだ。

簡単に「ひとりは出来る子でもうひとりは出来ない子」と切り捨てる考え方を好ましく思っていない私にとって、この辺りを表現してくれたことが素直に嬉しかった。それが個性であり、個性を尊重すればお互いをカバーしあえるのだと思う。

 

また、それとは別の話になるが、『月のぶどう』で歩が恩師にワインを届けるシーンがある。中学の時の国語の先生である倉田先生にワインを届けるため、倉田先生の夫が入られている施設にワインを持っていく。倉田先生の夫はすこし前からいろんなことがわからなくなっており、霧の深い日もあれば浅い日もある。霧の深い日は倉田先生のこともよくわからなくなる。だが、ちょっとしたことがきっかけで、倉田先生の夫が倉田先生の名前を呼ぶのだ。このシーンに胸がいっぱいになった。

以前にも書いたことがあるが、私の父は軽い脳梗塞である。動くことにはさして困らないのだが、記憶に欠落が起きることがある。霧の深い日も浅い日もある。中でも固有名詞は思い出しずらいようで、私だとわかっていても名前が出てこないことが多い。

年末に帰省した際もそうだった。帰省したのが自分の娘だとわかってはいるが、名前はなかなか出てこない。私はあえて名前を呼ばれなくても「私」を「私」と認識しているだけで十分だと思った。

帰省して何日か経ったある日、私は用事で1人で出かけた。帰宅すると、他の人も出かけていたようで父が1人で留守番をしていた。父は窓から外を見ていて、私の姿を見つけると、ホッとした表情で「えこが帰ってきてよかった。安心した」と言った。

あ、今、私の名前を呼んだ。それだけを思った。

しばらくしてからじわじわ嬉しくなってきた。人から名前を呼ばれてこんなに嬉しいと思ったことがあっただろうか。私に名前があることがこんなに喜ばしいことだと思ったことがあっただろうか。

そして、私がいることで安心してくれる人がいるということが本当に幸せだと思ったのだ。

 

 

月のぶどう

月のぶどう

 

 

 

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