バンビのあくび

適度にテキトーに生きたいと思っている平民のブログです。

【娘が書いた読書感想文】 穂高明さんの『青と白と』

今年も娘の夏休みの宿題に読書感想文があった。

毎年、娘に頼まれて読書感想文用の本を私が選書いるのだが、今回は「地震に関するものがいい」とのリクエストがあったので迷わずこの本を選んだ。

 

青と白と (中公文庫)

青と白と (中公文庫)

  • 作者:穂高 明
  • 発売日: 2019/02/22
  • メディア: 文庫
 

穂高明さんの『青と白と』

 

今回は『青と白と』を読んだ13歳の娘が「せっかく書いた読書感想文を誰かに読んでもらいたい」と話したので、私のブログで紹介することにした。

『青と白と』がどのような本であるか、また、中学生の女の子が何を思うのか、そんなことを感じながら、読んでもらえると娘も喜ぶと私は思っている。

 

***

 

 

「ああ、私はなんて無力な存在なんだ。」
津波で沢山の家が流されていく映像を見た時に私の心から溢れ出し た感情は、 東日本大震災が発生後の悠子の心情とぴたりと一致した。


東京に住む仙台育ちの駆け出しの作家、 悠子はバイトで稼いだお金でギリギリの生活を送っていた。 しかし、震災をきっかけにそんな日常は崩れてしまう。 津波に襲われた故郷、心無い言動をする人達、 明らかになっていく友人や親戚の死、何もできない自分。 この物語は震災によって悠子に襲いかかった数々の出来事が生々し く描いている。


2011年、3月11日。東京の自宅で過ごしていた悠子を、 猛烈な揺れが襲った。 故郷の宮城の家族に電話を掛けるも繋がらず、 テレビを付けた途端目に映るのは真っ黒な水に覆われていく故郷の 景色。 もし私が悠子の身になったと思うといてもたってもいられなくなる 。 私は予期せぬ事が起こった時に現実を受け止められなくなって心が からっぽになってしまう事がよくあるのだ。 きっと家族や故郷に対する不安をどこにぶつければさせればいいの か分からずボロボロになってしまうだろう。
悠子を自分と置き換え、考えながら私はページをめくっていく。 すると、思わず目を疑うような場面が私の元に飛び込んできた。 そこにあったのは、津波の映像を見て、 笑顔ではしゃぐ人達の姿だ。私の心に怒りが込み上げた。 なぜそんな事ができるのか。でも、 確かに東京の人からすれば東北の地震なんて他人事にしか過ぎない のだ。けれどそんなこと言っていいはずが無いだろう。 人が亡くなっているのに、なんで。ただひたすら疑問に思う。 しかし、今年九州で豪雨が発生して、 テレビで水に沈む家を見た時、私は「大変だなあ。」 と思うだけだった。結局はそれもこの人達と同じく、「他人事」 という認識から生まれた思いなのかもしれない。


悠子の家族の無事は分かったが、 それと同時に親戚や友達の死も明らかになってくる。 やっとの思いで仙台に戻った悠子の目の前には変わり果てた故郷が あった。何年か前、母から聞いたことがある。「震災後、 友達が住んでる仙台行ったけど、何も無かった。」
と。悠子にとって、その変わり果てた場所は紛れもない「故郷」 なのだ。 幼い頃自分が育った場所が全く知らない姿になっているなんて、 私にはとても考えられなかった。
東京に戻った悠子はあんな故郷の景色を見たのになにもできない自 分をもどかしく感じていた。このシーンを見た時、 声として出そうなくらい心の中で「分かるよ」 と強く叫んでしまった。私は2年前、 東日本大震災津波の映像を見て、ただひたすら涙を流していた。 私が泣いても何も変わらないのに、できることがあるはずなのに、 分からない。西日本豪雨の時だって、 胆振東部地震の時だってそうだった。「 災害による死者をゼロにする」 という目標を掲げ地震学者を目指していた私にとって災害の報道は 酷く私の心を傷つけた。本当に傷ついてるのは私じゃないのに。 何かできるはずなのに。 私はこの時の悠子の気持ちが痛いほど分かった。 そんな悠子の友達Sは、音楽で被災地を元気づけていた。悠子は
「S君は凄い。 音楽と違って小説は即効性が無くてこういう時には無力だ。」
と自分の気持ちをSに話した。それに対しSは
「即効性がなくても、 受けとってくれる人の何かが少しずつ変わるかもしれない。 そうだとしたらいいなあって思う」
と返した。これは悠子に向けた言葉であるが、 悠子と同じ気持ちを持っていた私の心にも強く響いた。確かに、 すぐ何か変えようと、 動こうとしなくたって少しずつ何かを動かしていく事はできるはず だ。私は何もできないと諦めきってしまっていた。 だから九州で豪雨が発生した時、 それを他人事としてぼーっと見ていたのだ。 災害による死者を無くすため、 釜石の教えについて皆に発表したじゃないか。 防災センターへ行った事を作文に書いて掲示板に貼って貰ったじゃ ないか。それは今被災地の人達を元気づける事はできないが、 見聞きしてくれた人に知識を与え、 将来災害が起きた時に役立ててくれるかもしれない。 そう考えれば、私にできることはたくさんある。悠子は、 自分が震災で体験した事を小説に書く決意した。 それが何もできないと悩んでいた悠子にできる事だったのだ。 私も悠子と同じように悩んでいた。でも、 本を読んでやっと分かった。私ができることは、 自分の持っている知識を教え、 将来災害によって苦しむ人を一人でも減らすことだ。 これならできる。


テレビで災害の報道を見るだけでは分からない「現場の状況」を、 この本は教えてくれた。そして、私にできる事も。 この本に出会えたことに感謝し、 私は久しぶりに自作の防災ファイルを開いてみる事にした。