いつの間にか、来年がちらっと見えるような年の瀬になりました。
今年は新型ウイルスの影響で家にいる時間が増え、本を読まれた方も多かったのではないでしょうか。
私も例年より本を読んだのですが、絵本に限ってはなかなか本屋さんへ足を運べなかったため、あまりリサーチできなかったように思います。
それでも購入した絵本はたくさんありました。
「今年購入した絵本」で記事を書くのは7年目になりました。今年購入した絵本は「今年発売したものに限る」というルールでずっと書いています。
私の個人的趣味で選び、思い入れを書いています。
よろしければ最後まで読んで下さい!
『ジュリアンはマーメイド』
ジェシカ・ラブ 作 横山和江 訳
(サウザンブックス社)
スイミングの帰りにマーメイドのお姉さんと出会ったジュリアンはおばあちゃんに「ぼくもマーメイドなんだ」と打ち明ける……。
ここ数年、LGBTQを意識した絵本や児童書が増えていると感じますが、この本もその思いを組みつつ、最低限の言葉で表現した素晴らしい絵本だと思います。
何より、ジュリアンの美しいこと!好きなものを身につけることの喜びと気高さが見えた気がしました。また、おばあちゃんの自然体で豊かな心に思わずホッとさせられます。
この絵本、水着姿の女性が何人か描かれているのですが、細い人、ふくよかな人、どんな体型の人であっても堂々としていて、素敵だと思いました。
『めいわくなボール』
牡丹靖佳
(偕成社)
ホームランボールがえんとつから家の中へ入りこみ、めちゃくちゃにする話です。
これだけだと、どれだけ面白いか伝わらないと思うのですが、この絵本は絵がとても良いのです。「絵本だから」この面白さを引き出せたと言っても過言ではありません。跳び跳ねるボールを追うように、家の各部屋の様子がわかります。猫は飛び上がり!住民はボールが当たらないように頭を抱え、小さくなっています。家具の配置や雑貨の色使いが素敵で何度も読み返していました。言葉もリズムがあり、ちゃんと着地(オチ)するため、読み聞かせしても面白いと感じました。
『ぼくはいしころ』
坂本千明
(岩崎書店)
みちばたに落ちているいしころのように、ポツンとひとりで生きてきたねこのお話です。
「こえをあげてはいけないよ おそろしいてきに みつかってしまうから」
ずっと前に教えてくれな誰かの言葉を守り、ひっそりと暮らしていたねこ。確かにその世界は守られていました。黙っていれば平和で、寂しいこともないのですから。
ある日、優しい「誰か」がねこにごはんを与えてくれます。そのことが、固く閉ざしていた、ねこの世界を変えるのです。
「そうだ ぼくは とても おなかが すいてたんだ」
言葉が流れる水のように溢れだし、止まらなくなったねこの姿に、何度読んでも切なさと力強さを感じます。
黙っている世界は平和です。
でも、それは、あなたの望んだ世界なのですか?
ねこが私に問いかけてくるとき、私は行動し、声を出す意味を考えます。
こわいです。できればやりたくないです。
それでも、越えた先には新しい何かがあり、きっと世界を広げてくれるのだと思います。
紙版画で描かれた、猫の柔らかそうな毛、一本一本から力をもらえるような気がしました。
『ねこは るすばん』
町田尚子
(ほるぷ出版)
にんげんが出かけていき、家に残されたねこ。おとなしく留守番をしているかと思いきや、どこかに到着し、外の世界で遊び回ります。
「どこへいく?」と問いかけられて、次のページで「どこかにとうちゃく」しちゃうスピード展開。絵本では時々、こういうことが起こり、子ども達がげらげら笑ったりします。(余談ですが、いしかわこうじさんの「パンダくんのおにぎり」がこんな展開で子ども達にめちゃくちゃウケが良かったです)
さて、気の向くままに1日を過ごすねこを観察しましょう。
あれ?これはある日の私では?なんて思ってしまうはず!
ねこ絵本を描かせたら、右に出るものはいないと言われている町田さんらしく、猫の表情や仕草がいちいち笑わせにきます。
疲れた日にこの絵本を読むと、なんだか明日も頑張ろうかなって思えます。
気負わず、のんびりいきましょう。
『レミーさんのひきだし』
斉藤倫・うきまる 作 くらはしれい 絵
(小学館)
ひとり暮らしのレミーおばあさんのおうちには、大切にしている小さいたんすがあります。そのたんすの一番下のひきだしには、何が入っているのでしょう。ときどき声が聞こえてきます。
たとえば、大事な人からプレゼントをもらったとき。中身だけでなく、包装紙やリボンも愛しくなり、大事に取っておくことはありませんか。
私はあります。
包装紙のテープはゆっくりとはがし、大事にたたみます。リボンはくるくるっと巻いてしまいます。かわいい箱はそのまま、しまいます。それらは、過去の思い出としてではなく、またいつか新しい息を吹き込むためにひととき、眠ってもらうのです。
レミーさんの穏やかな心が、びんや箱にも伝わって、皆が笑顔になれるようなお話です。斉藤倫さん、うきまるさんペアが紡ぐ優しいおはなし、イラストレーターのくらはしれいさんが描く素敵なイラスト(私はくらはしさんの描く花が好きです!)による相乗効果で柔らかい世界を作っていると感じました。
いいな。年齢を重ねても夢があるな、って、良い歳になった私は思ったのです。
『こどもたちは まっている』
(亜紀書房)
こどもたちは、いつも何かを待っている。
日常の中で私たちは「待つ」という行為を繰り返しています。明日が来るのを待ち、季節を待ちます。嬉しい知らせを待つこともあるでしょう。
「待つ」行為から、私は少しの希望を感じます。もしかしたら明日が来ることを待ちたくない子もいるでしょう。「待つ」ことは常に未来が想定されています。「待つ」ことは当たり前のようで当たり前でないのかもしれません。
荒井良二さんが描くこどもと景色は、こども達に夢を与えてくれているような気がします。
この絵本は長新太さんの『ちへいせんのみえるところ』にインスパイアされて描いたようです。
一緒に読んでみてほしいです。
『やねうらべやのおばけ』
やねうらべやのおばけ
しおたにまみこ
(偕成社)
おばけは、長いこと屋根裏部屋で1人楽しく暮らしていました。ある日、この家に住んでいる女の子が屋根裏部屋にやってきたのです。
おばけは女の子に自分の部屋には入ってほしくないため、怖がらせようとします。でも女の子はちっとも怖がりません……。
はじめて誰かと友達になるとき、最初から相手にたいして心を開いていることって案外少ないですよね。相手がどれだけ良い人であったとしても、私は相手を知らないし、また、自分の気に入った場所に来られるとちょっとイヤだなぁって思うことは自然だと感じます。おばけの行動はいじわるなようでいて、とても良くわかります。自分のテリトリーに人が入るのは疲れますしね。でも、気になるひととは面倒でも近づきたい心が同時にあるとも思います。
『やねうらべやのおばけ』は読むひとによって、感じかたが異なる絵本だと思いました。しおたにさんが描く、体がまるっこくて、手足のほっそりしたおばけはかわいいです。絵は木炭鉛筆で何度も重ねて描かれているそうです。柔らかい風合いの絵がとても素敵で私は大好きです。
『ながいながい ねこのおかあさん』
キューライス 文 ヒグチユウコ 絵
(白泉社)
こねこのお母さんは、おしりも見えないくらい長いねこ。ある風の強い日、こねこはお母さんのしっぽのあたりまで飛ばされてしまいます。
そこにお母さんは存在していても、お母さんの顔が見えないと不安なのか、こねこはお母さんの顔の方へ歩いていきます……。
とても人気のある画家、ヒグチユウコさんと多彩な活躍をされているキューライスさんの共作絵本です。ヒグチユウコさんは今までにも本を出版されていらっしゃいますが、どちらかと言うと文字数の多い、童話に近いものが多かったように思います。今回、キューライスさんが文を書かれたことでヒグチユウコさんにたいするイメージが私の中で少し変化しました。少ない情報をリズミカルな文で表現し、それをヒグチユウコさんの絵がさらに深みのあるものにしたこの絵本。小さい子でも楽しく読めるような気がしました。
『ネコノテパンヤ』
高木さんご 作 黒井健 絵
(ひさかたチャイルド)
尾道に実在する畳一畳分の「ネコノテパン工場」をモチーフにした絵本です。あるひ、ななえがひとりでお店番をしていたら不思議なお客さんがあらわれて……。
お話は素朴で温かみがあり、黒井健さんの絵と、とても合っています。私は小学生の頃から、黒井健さんの絵が好きなのですが、黒井さんの絵は、心がささくれだっているときに優しくなでてくれるような気がするのです。そのイメージは今もずっと変わっていませんでした。(個人的に黒井さんの絵本では「手ぶくろを買いに」「12月24日」「さんぽようび」が大好きです)
いつか、尾道のネコノテパン工場を訪れたいと思いました。たべものが出てくる絵本は楽しくなるので好きなんです!
ネコノテパンヤの最初のお客さんを見たとき、なんだか絵本『ふしぎなおきゃく』を思い出しました。『ふしぎなおきゃく』もひさかたチャイルドでしたね。
『こたつ』
麻生知子
(福音館書店)
ある家族の大晦日から元日の様子を、こたつを真上から見た視点で読み進める絵本です。
慌ただしく動く大人を他所に、こたつでごろごろし、おもちゃを出しまくる子どもたち。大晦日だから起きてる!とがんばりってはみたものの、いつの間にか眠ってしまう……そんな誰しも経験したことのあるような光景がありました。
もしかしたら、もうこの光景に出会うことはないかも知れないと思いつつ、私はずっとこの光景がしあわせの象徴のような気がして追い求めてしまっています。別にこたつでなくても良いのかも知れませんが「家族が1つの部屋に集まれること」はそれだけで尊いことなのだと、年齢を重ねた今、切に思っています。
『ほげちゃんとおともだち』
やぎたみこ
(偕成社)
ゆうちゃんにひろくんというはじめてのお友達ができました。ゆうちゃんと一緒にひろくんの家へ行ったぬいぐるみのほげちゃん。ひろくんのおもちゃたちと何やらごちゃごちゃし始めます。
大人気シリーズ「ほげちゃん」の最新刊です。ほげちゃんはひろくんの家でもやりたい放題で、最初はお利口にしていたひろくんのおもちゃたちも一緒に遊びまくります。
いやぁ、おもちゃの話だとは思いながら、子どもが何人か集まるとこの状態になるよねー!と母である方々は頷くことでしょう。ただ、この絵本、素晴らしいと思ったのが、ほげちゃんとおもちゃたちが遊んだあとのページで、ほぼ遊んだものがかたづけられているんです。「おもちゃたち、やるな!」って思いませんか?だって、こどもってブロックとか床に散らかしてお母さんが叱りながら、足でブロック踏んでイライラするところまでがお約束じゃないですか。どれだけ遊び倒しても終わりよければ……なんて思ってしまいました。最後のページに描かれているねこのムウがなんとも言えず可愛いので見てください!
『怪物園』
junaida
(福音館書店)
たくさんの怪物をのせて旅をする「怪物園」がありました。ある夜、怪物園の玄関を開けたままにしたため、怪物たちが外の世界へ抜け出してしまったのです。街のまんなかをパレードのように歩く怪物たち。街に怪物がやってきたために、外で遊べなくなった子どもたちは空想の旅へ出かけます。
子どもたちの豊かな心に気持ちが和みました。現実と空想の世界のトビラは本当にどこかにあるんじゃないかなと私は思っています。緻密な絵と鮮やかな色彩は何度読んでも新しい発見がありそうです。
今年、世界的なウイルスにより、行動が制限されました。家に閉じこもる生活を強いられた今、この絵本を読むことで「想像力」と「創造力」について考える機会を与えられた気がしました。
『ねこはすっぽり』
石津ちひろ 文 松田奈那子 絵
(こぐま社)
ごろりーん ごろりーん
のびーん のびーん
ぴたぴた ぴたぴた
オノマトペにあわせてねこが自由に動き回ります。体をぐいーんと伸ばしてみたり、水を飲んだり、からだをなめたり。
私はねこを飼ったことはありませんが、家にねこがいたらこんなふうだろうなと思い、心が和みました。
「ぴとーん ぴとーん」の顔とかかわいくてたまりません!「ぴとーん」が何をしている姿か気になる方はぜひ読んでみてください。
ねこをすっぽり抱きたくなると思います。
『大事なことはみーんな猫に教わった』
(径書房)
この本の帯に、訳者である谷川俊太郎さんが
私たちが猫から学ぶのは自分勝手に生きる方法です。
と、書いています。その言葉どおり、ねこのように自分勝手に生きればいい!と強く思える本です。
内容はコミカルなねこの絵があり、動きを説明するようなかたちでたくさん書いてあります。ちょっと悩んだときに読んだら悩んでいることがバカらしくなるかもしれません。
谷川さんのまえがきにこんな言葉も書いてありました。
ただ純粋に無目的に自分勝手にしていればいいのです。権力や名誉や愛や正義を追求しては行けません。考えたり反省したりするのも禁物、過去も未来もなくただ一瞬一瞬したいようにする、それが秘訣です。
私たちは考えるいきものですから、常に無目的でいることは難しいですし、そういうわけにもいかないでしょう。でも、実は考えていることの半分以上は考えなくても良いことである可能性はあると思います。
もう少しリラックスして、生活してみるのも良いのではないでしょうか。
これ、ほぼ私自身に問いかけています。
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他に月刊誌の「こどものとも」なども購入していますが、そこまでの体力がなかったので……言い訳です。
本は世相を反映すると思うのですが、絵本にもそういったモノがあったりします。
書いているひとに感情があり、その思いが作品として具現化されているのですから当然かもしれません。
絵本は文と絵で構成されているため、文字で多くのことは語られないぶん、奥ゆきがあります。
絵本はただ眺めるだけもよし!
深読みするもよし!
読み手への自由度は高い、楽しい世界ですのでぜひ、足を踏み入れてみて下さい。