バンビのあくび

適度にテキトーに生きたいと思っている平民のブログです。

江國香織さんのレクチャーが素晴らしかった話。

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12月12日。

四日市にあるこどもの本屋「メリーゴーランド」で開催された江國香織さんのレクチャーへ行ってきた。

レクチャーへ参加してみたいと何年も思っていたけれど、生活(心も)がなかなか落ちつけずやっと実現できた。

今回、定員50名ところを状況も落ち着いてきたので80名まで増やして下さった。増やしてくれなければ、参加できなかったと思うのでラッキーだった。

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メリーゴーランドの店主、増田さんが江國さんの名を呼ぶと、江國さんは軽やかに現れた。私は小泉今日子さんがやっているPodcast番組「ホントのコイズミさん」を聴いているのだが、そのゲストであった江國さんの語り口がふいに思い出され、「あー、本物がいる」と当たり前な感想を持った。それくらい感激した。

まずはもうすぐ発売の『ひとりでカラカサさしてゆく』の話から始まった。ホテルに集まった八十歳過ぎの三人の男女が一緒に命を絶ったというストーリー。

「家族の知らない顔ってありますよね」

江國さんの問いにぶんぶん首を縦に振った。子ども達でさえ、私の知らない顔があると思うのに、八十歳を過ぎた男女はどれだけ知らない顔があるのだろうと想像した。

また、泣きながら食べられるものって何があるか考えるのが宿題として出された。

口をあんまり動かさないで舐められるようなものなら泣きながらでも食べられるかな。

次に江國さんが今年読んで良かった本の話になった。江國さんは松浦尚輝『私が行ったさびしい町』を挙げており、なんだかとても読みたくなった。

また、山本周五郎賞の選考委員をしていることから佐藤究『テスカトリポカ』について熱く語っていた。自分では手に取らない本だけれど、読んだら面白かったと。佐藤究さんにも触れていたけれど、あまりにも率直過ぎるのでここに書くのは避けておく。とにかく膨大な参考文献に驚き、現地へ足を運び、ひとつの作品に入り込む佐藤さんを「何者だろう?」と仰っていた。

テスカトリポカの話から、暴力的なシーンなどを含む作品を子どもに見せることについて語っていた。増田さん、江國さんとも「暴力的なシーンがあっても面白いものは面白い。避けて通る必要はないのでは?だってそれができるのが本の世界でしょう」と話されており、私も大いに共感した。

話がさまざまな方向へ向かっていくので、頭を切り替えついていくのに必死だった。すべてが面白いからこそ、ひとつも聞き逃すまいと集中した。

今年、江國さんがドゥマゴ文学賞の審査員となり、初の絵本を文学賞に選んだ。それが堀川理万子『海のアトリエ』だ。これは私も驚いたし「さすが、江國さん!」とも思った。『絵本は文学』だと言い切っている選評にも感動した。私も絵本は文学だと思う。

個人的な話だが、子どもの頃から今に至るまで私はずっと絵本が好きで、いつも傍らにいてくれるのが絵本だった。「絵本は子どもの読むもの」と思われていることが多く、肩身の狭い思いをしたこともあるけれど、それでも絵本売り場に自然と足が向いていた。言葉と同じくらい、または、それ以上のものを絵本の「絵」から受け取ってきた。私が文章を綴るとき、心のどこかに絵本が存在しているのは間違いないと思う。 

さて、「海のアトリエ」の素晴らしさについては江國さんの選評を読むことをオススメします。

受賞作品 | Bunkamuraドゥマゴ文学賞| Bunkamura

作者である堀川理万子さんもお話を聞いて魅力的な方だと思った。私もメダカに天からエサを与えたい。

他にもラブレターの話、フランス映画、シャンソン四日市の地元ネタなど、書ききれないくらい楽しい話が続いた。

最後に増田さんが「もう詩は書かないの?書いて欲しいな」と江國さんに伝えていて、おそらくあの場にいた多くの人が頷いていたと思う。

同じことを述べるのでも、言葉のチョイスによって印象が変わる。そういった意味でも江國さんの言葉の選び方は素晴らしく、私はいつも期待してしまうのだ。

 

今回は新刊『ひとりでカラカサさしてゆく』の出版サイン会をする予定であったようだが、発売が遅れたため、本は予約販売となっていた。私もサイン本を予約してきた。早く読みたい。そして、また江國さんの言葉を聞きたいと思った。

 

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江國香織さんのレクチャーが始まる前、メリーゴーランドの店主、増田さんが少しお話をされており、その中で「表現することは生きることだと思う」仰っていた。それがなんだかじわっときてしまった。

街に紛れている、特に何の特徴もない私にだって表現の自由がある。私は突拍子もないことをしたり、目立つことは得意ではないけれど、続けることはわりと得意だ。自分の力がそこまで大きくないと理解しているので、いつも薄いホットケーキを何枚も何枚も重ねてインスタ映えするホットケーキになるくらい積み上げようとしている。

いつまでもいつまでも続けたい。この先私がどうなるか。私がいちばん知りたいのだから。