京都へ行った。
今日の目的は原田郁子さんと寺尾紗穂さんのライブだった。昨年、ライブの情報が入るとすぐに出張の日とかぶっていないか確認し、チケットを取ったのだった。あとからこの日が文学フリマ京都の開催日と知り、せっかくなので文学フリマへ足を運ぶことにした。
京都駅から地下鉄に乗り込んだ。何駅か過ぎた頃、隣にいたカップルと思しき男女の女性の方が自分のバッグを見て、辺りをきょろきょろし出した。
「どうしたん?何か探してるん?」
男性が女性に声をかけている。
「バッグについていたピクミンのひとつが取れててん。さっき、女の人が降りたとき避けたんやけど、女の人の服にピクミンがついていってしまったみたい」
女性はやや悲しそうに話した。
「そんな面白いことがあるん?でも女の人にピクミンついていったらピンが剥き出して危ないやんなー。大丈夫やろか?」
「また任天堂ショップへ行って買わんと」
「そやな」
ふたりの会話はそこで終了した。
とても優しい人たちだと感じた。
自分が大事にしていたものを失くしたのに、それを引っ付けていってしまったかも知れない女性の心配をしているのだ。会話も終始穏やかで素敵だなと思いながら地下鉄に揺られていると、前に立っていた人の足元に銀色をした変わったカタチのものが落ちていることに気がついた。何が落ちているのだろう。あのカタチはなんだろう。急に現れたクイズを解こうと頭をフル回転したとき、先ほどのカップルの会話を思い出した。あ、あれはピクミンかも知れない。ピクミンのキャラクターを目にしたことはあるものの、そこまで詳しくないし、尚且つ落ちているのは裏返しの状態でありシルエットしかわからない。あれは本当にピクミンなのかそこまで自信はなかったが、可能性があるのであれば伝えた方が良いと判断していた。
「あの、先ほどの会話が聞こえてしまったのですが、あそこに落ちているのはもしかしてピクミンではないですか?」
勝手に会話を聞いたことを詫びつつ、女性に話しかけた。女性は私が指差した方向を確認し、「そうです!ピクミンです!」と答えたのだった。ちょうどそこで駅に着いたため、女性が手にするのを眺めつつ、降車しようとすると、背後から「ありがとうございます」と男性の声がした。
すれ違っただけの人たちと、気持ちの良い時間を過ごせた。
文学フリマはブースがたくさんあり、どこから見て良いのかわからなかったため、とりあえず知り合いのブースを回ることにした。出版社のブースで、「この本はひびうたで購入したんです」と話すと、ほぼ村田さんの熱量がヤバイって話になるのが面白かった。あまりに本と本屋の話をしてしまったためか「書店にお勤めの方ですか?」と聞かれてしまった。ひびうたでお会いする狐伏澤つたゐさんのブースで澁澤龍彦の熱い話をお伺いしたあと、いつも文学フリマに出店されている狐伏澤さんに読んだことのない方の本を探したいが、どうすれば良いか尋ねた。すると、見本誌コーナーがあるのでそこでゆっくり探すと良いですよとアドバイスを頂いた。早速、見本誌コーナーで手当たり次第本を開いていく。それがあまりにも楽しくなってしまい、気がついたら1時間ぐらい過ぎていた。見本誌コーナー、恐るべし。いくつか気になった本が置いてあるブース番号をメモし、会場を歩きだした。
こちらは見本誌コーナーで気になって購入したシロナミさんの『喫茶店看板』
シロナミさんが行かれた喫茶店の看板イラストがたくさん描かれており、眺めていて楽しい。シロナミさんは会社で働いたのち、美大の大学院へ行かれた経歴の持ち主だった。少しだけ知人に似ており、話も面白かったので横に置いてあった日記を手に取った。少しだけ読んでみると、読んでいる本や観た映画が私とかぶっていたため、日記も購入した。なんとなくまた何処かでお会いする気がしている。
文学フリマの会場を後にし、京都の街を歩いた。観光客と住民が要り混ざり、日常と非日常の渦が形成されていた。
そのあと、ライブへ行ったのだが、この話はまた今度。