『ホンツヅキ三重』へ行った。
「ホンツヅキ三重」は三重県内の古書店9店が集合した古本市だ。三重県内で古本屋さんが集まった古本市は今まで開催されておらず、話を聞いた時から心待ちにしていた。
本好きの方と会うたびに合言葉のように繰り返された「ここだけの話だけどね……」から始まるこのイベント開催の話に「あ、〇〇さんから聞いたよ」と何度答えたことだろう。皆が話したくてたまらないほど、待ち望んでいたイベントでもあった。
私はその日、有休を使い会場へ向かった。開催期間は3日間だが、予定を考えると金曜日に行くのがベストだと思ったのだ。
私が会場に到着したのは始まって1時間ほど経った頃だと思うが、平日にもかかわらず、人が多くて驚いた。
本の棚になかなか近づけないところもあり、遠くから人と本を眺めた。
私の生活圏(この場合、職場や近所をさす)には本を読む方があまりいないため、こんなにも本が好きな方達がいることに、じわりと胸が熱くなった。楽しそうに、時には真剣な表情で本を眺め、選んだ本を手に取りページをひらく。
そこから解き放たれていく文字と空気を想像し、思わず天井を見上げた。
まずは全体を1周、そしてまた1周。数分前に見た棚なのに、時間を置いてから見てみると先ほどは見えていなかった本がそこに現れる。
「マジックか?それとも魔法なのか?」
考えてみるけれど、そんなことがあるわけない。おそらく夢中になりすぎて見落としていた本なのだろう。人は夢中になると視野が狭くなるのだなと思った。
時間があったので、慌てることなくゆっくり楽しみ、何冊か購入した。
買っていなかった韓国文学の本、大好きな武井武雄の本、開いたらキノコがたくさん描かれていた絵本など。原稿用紙に見えるのはクリアファイル。
CAFEめがね書房さんでスノーボールクッキーとクルミのマフィンを購入。めがね書房さんと少しだけお話した。前回言葉を交わしたのは岐阜だったのだが、その時にレモンケーキを購入したことまで覚えていて下さった。適当なことばかり話していたら、お伝えしたかったことを伝え忘れ、あとからDMさせてもらった。数か月前から伝えたかったことをお伝えできて良かった。
いつもお世話になっているひびうたのイモコちゃんやjunちゃんとも少しだけお話した。
翌日の土曜日にもちらっと伺い、ぽらんさんとお話した。
縁のない土地に住み始めたときは不安しかなかったけれど、私を覚えていてくれ、話せる相手がいることに喜びを感じた。
静かに呼吸をし、明日が来ることだけを考えていた日々を経て、ようやくじんわりとした温かさを手に入れられたような気がした。
私は何かを成し遂げるために生きているわけではない。
***
8年前、このイベントの元となっているkalas booksさんが主催された「ホンツヅキ」へ行った。交友関係が狭く、情報を得ることにも慣れていなかった私がこのイベントを知ったのは本好きの友人が教えてくれたからだ。
一箱古本市へ行くのもはじめてで、なんだかとても緊張したのだが、本を眺めていたらそんな不安はどこかへ去っていった。本が好きな方と話すのが楽しく、育児で疲れ気味だった心に水を与えてくれた。
非日常の空間は苦しくなったときにこそ、必要だと感じた。
そこで購入した「ホンツヅキ」の冊子を教えてくれた友人へ贈った。
人から人へ手渡されるのは目に見えるモノだけではなく、想いも一緒であることを忘れないようにしようと思った。